祭り囃子と共に
蛍は僕が追いつけるかと思うと、突然速度を早めて飛んでいってしまう。
なんとなくだが……危険な感じがする光だった。
しかし、蛍を追う以外に僕には選択肢はない……そう思えてしまって僕はひたすらホテルを追ってホテルの廊下を走る。
ただ、段々の不思議な事が起きてきた。
廊下を走っていると……どこからともなく笛の音が聞こえてくるのだ。
おまけに廊下には誰もいないはずだったのに、人々の喧騒さえ聞こえてくる。
恐怖は感じるのだがだが……それ以上に僕は蛍を追うことをやめられなかった。
そして、しばらくすると僕は自分がホテルにいないことを理解した。
僕が蛍を追って走っているのは……神社の境内だった。
白神神社ではない。どこか知らない神社……そこでお祭りが行われている。
遠くから聞こえてくる祭り囃子、人々の楽しそう声……僕は思わず足を止めた。
「……ここは……なんだ?」
「黒須君。どうしたの?」
背後から聞こえてくる声に、瞬間的に僕は振り返る。
そこにいたのは……
「ケイ……さん……?」
顔つきは確かにケイさんだった。
だが、僕が知っているケイさんのように肌は小麦色ではなく、それこそ、透き通るように真っ白、それでいて髪もきれいな黒髪だった。
そして何より服装は……赤と白の巫女服だった。
「ケイ? ふふっ。おかしな黒須君。私の名前、忘れちゃったの?」
「え……名前……?」
すると、ケイさんらしき少女はニッコリといたずらっぽく微笑む。
「はぁ……蛍よ。私の名前は蛍。思い出した?」
「え……あ、ああ。そ、そうだね。蛍……」
意味の分からないまま僕は頷く。
蛍……確かにそんな名前だった気がしてきた。
しかし、一体いつ、僕はこの子と知り合いになって……
「まったく……ほら、そろそろホタルビ様の儀式が始まっちゃう。行くわよ」
そう言うと、蛍と名乗った少女は僕の手を掴む。
そして、そのまま神社の境内を走り出した。僕は呆然としたまま、彼女に手を引かれるがままになっていたのだった。