蛍の誘い
そして、程なくして僕と番田さんはケイさんが泊まっているという白紙町内のビジネスホテルにたどり着いた。
「……ケイさん。ここに泊まってるんですか」
「ああ……無論、宿泊代は私持ちだがね……」
番田さんが苦笑いをする。そのまま僕と番田さんはホテルの中に入っていった。
番田さんが受付で少し話をした後戻ってきた。
「ケイくんの部屋は4階にある405号室だ。エレベーターで上がって廊下の一番奥……行けばすぐわかると思う」
「え……番田さんは行かないんですか?」
僕がそう言うと番田さんは意味深に微笑む。
「怒った状態の彼女には、あまり会いたくないのでね」
番田さんの口調は……冗談を言っている風には思えなかった。どうやら本当に番田さんの言うとおり、怒った状態のケイさんは……かなり怖いようである。
「……わかりました。行ってきます」
僕は言われたとおりに、エレベーターに乗った。
……いや。考えてみれば当たり前なのだ。ケイさんは相当怒っているのだ……恐ろしい事態が待っている可能性だって大いに有り得るのである。
問題はそれがどの程度恐ろしいのか……ということなのだが。
エレベーターはすぐに4階にたどり着いた。薄暗い廊下がどのとこなく恐怖を助長させている気がする。
「……だ、大丈夫だよね……」
自分自身を励ますように、僕はそう呟いて405号室へと向かっていった。
しかし……なんとなくだが、405号室に向かって行く足が……どことなく重いのだ。
それは気持ち的な意味ではなく……本当に重いのである。
気分も重くなってくる……しかし、かと言って足を止めるわけにも行かず、僕はそのまま405号室へと向かった。
そして、なんとか405号室の前につくことが出来た。僕はドアをノックする。
「……ケイさん?」
……返事はなかった。僕はドアノブに手をかける。
「……ん?」
と、薄暗い手元が……光った。その光を見ると……
「……え……蛍?」
見るとそれは……蛍だった。
僕だって図鑑やテレビなんかでしか見たことがなかったが……お尻の部分が光っているので、蛍だということがわかった。
「な……なんでこんな所に……」
困惑していると、手元から蛍が飛び立った。そして、そのまま僕が今歩いてきた廊下の彼方へと光が消え去っていく。
と、僕は思わずその光を追いたくなってしまった。そのまま勝手に足が勝手に動く。
そして、僕は蛍のかすかな光を追って歩き出したのだった。