彼女の感情
「というか……ケイさん。まだこの町にいたんですね……」
喫茶店を出てから、僕は番田さんにそう言った。
番田さんは僕のことを見てから話を続ける。
「……私の方から君に伝えても良かったんだが……彼女が許してくれなくてね」
「ケイさん……相当怒っているんですね……」
「当たり前だ。言っただろう。彼女だって色々と抱えているものがある。そして……彼女にとって君は、自分のことを理解してくれる人間だと思っていた分、裏切られたような感覚なのだろうな」
番田さんの言うことに、僕は思わず驚いてしまった。
「え……裏切られた……?」
「ああ。自分でもそうは思わないか?」
番田さんは責めるような目つきで僕のことを見る。
確かに……僕とケイさんは成り行きとはいえ、今日までそれなりの期間共に行動してきた。
それなのに、僕はあの一瞬絵で彼女とのつながりを自ら断ったのだ。
ケイさんにしてみれば、ずっと行動をともにしてきた日々はなんだったのかと思うのは当たり前だろう。
益々僕は、自分がしたことが許されないことだということを理解する。
「……とりあえず僕は……謝りたいです」
「ああ。言葉には気をつけて謝ってくれ。彼女も怒ると……自分自身ではどうにもならない感情というものを放出してしまうことがあるからな」
「……え?」
唐突に飛び出してきた言葉に、僕は思わず声を漏らす。
「……えっと……番田さん。今なんて……」
「言葉の通りだ。霊的なものに対して敏感な彼女だ。彼女の感情は時に現象として顕現する……特に怒りは顕著な形で他者に牙を向くことさえあるんだ」
言葉の意味はわからなかったが……いや、理解はできたが、信じられなかった。
番田さんが言う言葉を信じるならば、それはつまり……
「……もしかして、ケイさんも怒ると……こう……白神さんみたなことができるってことですか?」
「いや。そこまで危険なことはできない。ただ、我々のような通常の人間と違って、能力として相手に怒りをぶつけることができるんだ……どうする? やはり彼女と会うのはやめておくか?」
番田さんはまるで僕を試すかのように僕にそう訊ねる。
番田さんの言葉を信じるならば、危険な目に会うかもしれない……でも、僕はそれ以上に……
「……いえ。会います。会って、ケイさんに謝りたいですから」
僕がそう言うと番田さんは満足そうに微笑む。
「結構。彼女が泊まっているホテルはこっちだ。行こう」
そういう番田さんの後を、僕は少し不安を抱きながらも付いていったのだった。