贖罪のために
「え、えっと……番田さん。その……」
「ん? どうした?」
番田さんは何食わぬ顔で僕のことを見ている。
しかし、僕はとてつもなく気不味かった。
場所は……喫茶店テンプル。
僕は番田さんに言われるままに、この場所に来てしまったのだ。
そして、目の前には黒いスーツの怪しげな男性が、コーヒーを啜っている……一体何が目的で僕をここに呼び出したのか……なんとなく予想がついていたからだ。
「え、えっと……番田さん。その……ケイさんなんですけど……」
僕がそう言うと番田さんはコーヒーを飲む手を止める。そして、僕のことをその鋭い瞳で捉えた。
「……ケイ君がどうかしたか?」
「……ケイさん……怒っているんですよね?」
「それは当たり前だ。聞けば、君のせいで死ぬような目にあったそうじゃないか。もしそれが真実なら、怒らない方がどうかしている」
番田さんは何食わぬ顔でそう言った。いや、実際その通りなので、僕は何も反論できなかった。
「……僕は、どうすればいいんですかね」
「ふむ……私も、あまり女心というものはわからないが……ケイ君は、割りと傷つきやすいタイプなのではないかと、私は思っている」
「え……ケイさんが……傷つきやすい?」
僕がそう訊ねると、番田さんは何も言わずにコーヒーを啜った。
そして、ふと遠くを見るように目を細める。
「……あれから、もう5年程経つのか」
と、番田さんは不意にそんなことを言った。意味がわからず僕はただ首を傾げる。
「え……5年? な、なんですか?」
「ああ……私がある神社を訪れてから……だな。その神社は、神社……と言っていいのか。今考えると、あれは神社ではなかったのかもしれない」
番田さんはそこまでいうと真剣な表情で僕のことを見る。
「……今からする話は……君がしてしまったことがどれだけ罪深かったのかをさらに意識させるような話だが……どうする? 聞きたいかい?」
「え……僕が……してしまったこと……?」
その意味はわかる。間違いなく……ケイさんのことだ。
僕は言葉を失った……番田さんのこの表情は……今からする話がそれなりに重い話だということを意味している。
そして、それはケイさんに関係している……今の僕にとってはかなりキツい話なのだろう。
「……僕は……後悔しています」
そう言うと番田さんはジッと僕のことを見る。
後悔しているのは、正直な気持ちだ。そして、自分自身が情けないという自覚も。
「だけど……もし、番田さんが僕にその話をしてくれるのならば……僕はその話を聞きたいです」
僕がそう言うと番田さんはフッと優しく微笑んだ。
「……わかった。これから話すのは……ある1人の少女の話だ。神様でもなんでもない……八十神語りとはまるで違う、現実にあった話だ」
そして、番田さんはゆっくりとした口調で話を始めたのだった。




