万策尽きても
「ば……番田さん」
番田さんだった……随分と久しぶりに会った気がする。
「……なんだ。アナタですか」
琥珀はつまらなそうにそう言う。番田さんは何も言わずに琥珀を見ている。
番田さんはちらりと僕の方を見てから、また琥珀の方に視線を移した。
「アナタが連れてきたあの女……今日は一緒じゃないのですか?」
「ん? ああ、ケイくんのことか。そうだな……今は一緒じゃない」
番田さんのその言葉を訊くと、琥珀は嬉しそうに微笑んだ。
「そうですか……アナタもこれ以上何をしようが無駄ですよ。既に賢吾の運命は八十神語りから逃れられないのです。何をしても無駄です」
琥珀は嬉しそうにそう宣言する……実際その通りなのだ。僕は既に八十神語りから逃れられないのだ……
「……確かに。そうだな。私には既にできることは何もない」
と、番田さんはそう言った。それを聞いて僕は確信した。
ああ……本当に終わりなのだ、と。
無論、自分が招いた状況だ……今更足掻くのも惨めだが……それにしてもやはり辛いものがあった。
「そうですか。でしたら、さっさと消えて下さい。もうこの町にも用はないでしょう?」
「ああ、だが……そこの黒須君とは話をしておきたい。それなりに長い付き合いだ。話をもせずに別れるのも寂しいからな」
そういって番田さんは僕のことを見る。僕は何も言わずにただ番田さんのことを見ていた。
「……そうですか。好きにすれば良いのでは」
そう言うと琥珀は、不満そうな表情を浮かべた後で、僕と番田さんに背中を向けてを歩き出した。
暫くの間、僕と番田さんは、琥珀の姿が見えなくなるまでその場で動かなかった。
そして、琥珀の姿が随分と遠くなってからのことだった。
「……やれやれ。油断ならない相手だな」
番田さんはそういって苦笑いする。
「番田さん……今日は……」
「言ったとおりだ。私には既にできることは何もない」
番田さんはそうはっきりと言った。僕は何も言えなかった。ただ……悲しげにうつむくことしかできなかった。
「……ただ」
「……ただ?」
そう言うと番田さんは少し間を置いてから、ニヤリと微笑む。
「……君が怒らせた彼女は……まだ、この町の神様との決着に、納得はしていないようだ」