追い詰められる精神
学校での授業もいよいよほとんど頭の中に入らなくなってきた。
考えてみれば……後一週間で、僕は死ぬかもしれないのだ。
というよりも、ほぼほぼ死ぬ可能性が大なのだ。
そうなると学校の授業なんて集中できるわけがない。
それに集中できない理由はそれだけではない。
視線だ。
以前よりも増して視線を感じる。
それが何の視線かは……琥珀のものである。
どこにいても琥珀の視線を感じるように鳴った。それは、既に家の中にいてもである。
自分がいよいよ八十神語りから逃れられないということが、僕には強く意識出るようになってきた。
だから……精神的にも僕は相当参ってきてしまったのである。
「賢吾」
授業が終わる。琥珀が僕に話しかけてきた。
僕は何も言わずに立ち上がる。琥珀も少し離れて僕の後を付いてくる。
どこにいても見張られている……頭がどうにかなってしまいそうだった。
「……いい加減にしてくれ」
学校を出てからしばらく歩いた場所……人通りの少ない途で、僕は思わずそう言ってしまった。
「はい?」
しかし、悪びれる様子はなく、琥珀は僕のことを見る。
「……もう……勘弁してくれ……八十神語りから逃げようなんてしないから……僕をずっと見張り続けるのは……やめてくれ……」
僕は懇願する気持ちでそう言った。
すると、琥珀はニッコリと微笑んで僕を見る。
「嫌です」
そして、嬉しそうにそう言った。
なんとなく予想はしていたが……まぁ、当たり前の返答である。
「……なんで……なんで僕なんだ……」
「あら? 今更何を言っているのです? アナタが私……そして、白神さんから逃れられないのは、アナタだけの問題ではないのです。それは……云うなれば運命なのですから」
「……運命……そんなの……酷すぎる……」
「ふふっ。酷すぎる、ですか。でも、あの泥棒猫だって、賢吾のやったことを受けて、きっとそう想いましたよ?」
僕がダメージを受けることを承知で、琥珀はそう言った。
そして、実際僕は何も言い返せなかった。
もし、今ケイさんの協力が得られるとわかっていたら……僕はまだ精神を安定させることができたかもしれない。
だけど、今の僕には……
「そう。私しかいないんです。もう私だけしか」
琥珀が勝ち誇ったようにそう云う。そう僕には、もう誰も――
「残念だが、まだ私がいるんだが」
と、そこへ聞こえてきた聞き覚えのある声。
「え……あ、アナタは……」
「やぁ、待たせたな。黒須君」
黒いスーツに、妖しげな雰囲気……そこには、考古学者、番田宗次郎が立っていたのだった。




