繰り返し
「え……琥珀……」
僕は後ろを振り返ろうとした……しかし、できなかった。
まるで何か見えない力で頭が全面に固定されているかのように、僕は首を……顔を動かすことさえできなかった。
「ふふっ……いけない人ですね。勝手に人の家に入って……人の部屋の日記まで盗んで……まぁ、あの女に唆された、ということで、賢吾のことは責めません」
……声は、間違いなく琥珀のものだ。だけど、声を聞いているだけで恐怖が僕のことを襲ってくる。
まるで得体の知れない何かと会話しているかのような感覚だった。
「……なんで、ここに……」
「なんで? それはここが私の家だからですよ。自分の家にいるのは当然じゃないですか?」
「……僕達を……どうするつもりなの?」
「ふふっ……賢吾には何もしませんよ。もちろん、日記を盗もうとしたことは悪いことだと思いますが……賢吾には、私の気持ちを知ってもらいたいですし……」
そして、しばらくの間沈黙がある。いきなり何も聞こえなくなった。
……琥珀はいなくなったのだろうか?
それにしては身体が未だに言うことを利かないような――
「あの女には、いい加減死んでもらいますよ。私を守ってくれなかった、あの人と同じように」
ゾッとするほど冷たい響きの声が、僕の耳元で聞こえてきた。
そして、その瞬間、拘束が解かれたようで、僕の身体は自由になった。
思わず僕はその場に尻もちを付いてしまった。
全身汗びっしょりだ。そして、僕は周囲を見回す。
「え……ケイさん!?」
ケイさんの姿がなかった。先程まで僕のすぐ近くにいたのに……
その瞬間だった。
ガタンッ、と、何かを蹴飛ばすような音が聞こえた。
その音は書斎の方から聞こえた。
僕は、琥珀の言葉を思い出す。
「私を守ってくれたなかったあの人と同じ方法……そんな……まさか!」
慌てて僕は立ち上がる。そして、全速力で書斎へと向かう。
書斎の扉が開いている……僕はそのまま書斎に飛び込んだ。
「ケイさん!」
僕がその名前を呼ぶと同時に見た光景は……かつて黒田さんのお爺さんがそうであったように、天井の柱から伸びた縄に首をかけ、宙吊りになっているケイさんの姿だった。