呼び声
そして、僕達は黒田家の中に入った。
人の存在を感じさせないその家は、以前やってきた時とは比べ物にならないレベルで恐ろしい感じがした。
なにより、廃墟と化した灰村家以上に、知っているはずなのに、まるで別物に見えるというのは僕にとって恐ろしさを助長させた。
「……とりあえず、黒須君の知り合いの部屋に行くから」
「え……黒田さんの部屋……ですか?」
「そう。黒須君、部屋の場所知っているんでしょ?」
ケイさんにそう言われ、僕は小さく頷いた。
「え、えっと……この家の奥です」
僕がそう言うとケイさんはそのまま僕の手を引いて歩いて行く。
誰もいない家に、僕とケイさんの足音だけが妙に響く。
そして、そのまま僕達は家の廊下を進み、奥へと突き当たった。
見覚えのある部屋……確かここが黒田さんの部屋だ。
「……入るわよ」
ケイさんがそう言って、扉をゆっくりと開ける。
部屋の中全体に夕闇が覆ってきていて、既に暗くなっていた。
しかし、電気を付けなくてもなんとか部屋の中に何があるかはわかる程度だった。
「……えっと、ここで何を?」
「決まってんでしょ。黒須君の知り合いが黒須君を憎む理由を探すの」
ケイさんはそう言うと無遠慮に片手で黒田さんのものと思われる机の引き出しを開ける。
「え、えぇ……何やっているんですか?」
「何って……探してんのよ。まぁ、アタシも経験あるからわかるんだけど、巫女ってタイプの人間は絶対……あった」
ケイさんはそう言うと嬉しそうにニンマリと微笑んだ。
ケイさんが手にしていたのは……大学ノートだった。表紙には小奇麗な文字で「日記」と書かれている。
「これって……黒田さんの……」
「そう。日記。おそらくここに黒須君を恨んでいる理由が書かれているはず。だから――」
『おーい。琥珀? 帰ってきたのか?』
その時だった。僕は思わず心臓が口から溢れてしまうかと思った。
声が聞こえてきた。
その声は、黒田さんの部屋の扉の向こう……誰もいない家の中から聞こえてきたのだ。
そして、恐ろしいことに、僕はその声に聞き覚えがあったのだ。
「え……い、今のって……」
『琥珀? 帰ってきたら返事をしなさい。今日はせっかく琥珀の好きな梅干しを新しく買ってきたんだ。料理もできているんだぞ?』
まただ。僕は確信した。
「け、ケイさん。これって、黒田さんのおじいさんの――」
「違う」
ケイさんはキッパリとそう言った。そして、悲しそうな顔で僕を見る。
「これは……死者の呼び声だから」




