憎悪の根源
「え、えっと……ケイさん。その……どこへ行くんですか?」
白神神社から離れてしばらくしてから、僕は思わずケイさんに訊ねてしまった。
しかし、ケイさんはすぐには答えてくれなかった。
「……ケイさん?」
「黒須君は、なぜだと思う?」
と、ケイさんはいきなり立ち止まって、こちらを振り向く。
その表情は……至極真剣だった。
「え……なぜって?」
「白神が黒須君を恨んでいる理由は分かる。それは、自分を裏切った男の子孫だから……でも、それだけでは答えが出ないのよ」
「……それだけだと答えがない? それは、つまり……?」
「黒須君の知り合い……黒田の巫女のことよ」
ケイさんはそう言って僕のことを見る。黒田の巫女……つまり、黒田さんのことだ。
「え……それは……黒田さんが僕のことを……」
「うん。それはそうだし、アタシ自身もそう言ったんだけど……その理由が気になってきたの。というか、確認したいのよ」
ケイさんはそういって再び歩き出した。僕はその後を付いて行く。
「……紅沢神社ですか?」
歩きながら、僕はそう訊ねた。ケイさんは何も言わずに歩いて行く……仮に、黒田さんのことを詳しく知ろうとするならば……紅沢神社の黒田家に向かうのが適当だ。
しかし、あそこは今は誰も住んでいないはずの場所……行って何か得られるのだろうか。
それから約十分程歩くと、あっという間に、僕とケイさんは紅沢神社に着いてしまった。
「……ここに来るのは……久しぶりです」
僕は思わずそう言ってしまった。ケイさんは何も言わずに境内を見回している。
「……少し嫌な感じがする……まぁ、誰も管理しなくなった神社なんてこんなもんか」
ケイさんの言う通り、既にこの神社には巫女も神主もいない……境内は以前来た時よりも木の葉が多く落ちていて、雑草も伸び放題だった。
「さて……黒須君の知り合いの家に入るよ」
そう言われて僕はケイさんに促されるように神社内部の黒田家の前にやってきてしまった。
「……鍵、開いているんですかね?」
僕がそう訊ねると、ケイさんはためらうこと無く玄関の扉を開く。
「開いてる」
ケイさんの言う通り、扉は開いていた。
僕はその時、書斎で変わり果てた姿で発見された黒田さんのお爺さんのことを思い出す。
そういえば……黒田さんのお爺さんは一体なぜ、自らの死を選んだのだろう。
番田さんが見せてくれた遺書には「琥珀、申し訳ない」と……なぜ老人は黒田さんに誤っていたのか?
「うわ……マジか」
と、ケイさんが玄関の扉を開けて家の中に入った瞬間、嫌そうな声を出した。
「え……どうしたんですか?」
僕がそう言い終わる前に、ケイさんは僕の手をいきなり握ってきた。
その瞬間、僕は確信したが、一応ケイさんの顔を見る。
「ああ……まぁ、この前よりはマシだけど……ロクなことになっていないから」
ケイさんは心底嫌そうな顔でそう言って、灰村家に入った時のように、僕と手を握ったままで家の中に入っていったのだった。