永遠の循環の中で
「……死んでもらう……ですか」
どのように返事をしたらいいかわからなかったので、僕はただオウム返しのようにそう返事をした。
白神さんは嬉しそうにニコニコと笑ったままである。
「ああ、そうだ。もちろん、君にだって戸惑いはあるだろう。だが……これは決まっていたことなのだ」
「……決まっていたこと?」
僕がそう言うと白神さんは白神神社の本殿を見上げる。
「この村のくだらない風習が私を縛り付けていた……いや。むしろ、黒田の一族を延々と縛っていたのだ。私はそんなくだらない風習には縛られたくないと思っていた……しかし、結果としてそこから逃れることはできなかった……その理由はわかるかい?」
白神さんは死んだ魚のような目で僕を見てくる。僕は少し戸惑ったが、目を逸らさずに白神さんのことを見た。
「……さぁ? どうしてですか?」
「決まっていたことだからだよ。全てね。私がこの風習から逃れられないのも、黒田の一族が永遠、この風習に苦しめられることも……そして、君が私と一緒に死ぬことも」
そういって、白神さんはこちらに一歩ずつ向かってくる。僕はそこから一歩も退かずに白神さんのことを見ていた。
「もう手紙を見てわかったはずだ。私は君の曽祖父に裏切られたんだ。そして、私は誓った。必ずや、彼の子孫に復讐する、と。そして、私の願いはようやく叶うんだ。この村のくだらない風習に君を巻き込み、それを完遂させることでね」
嬉しそうにそう言う白神さん……これが彼女の本性だ。僕は理解した。
遠い過去からの怨恨、そして、憎悪……ケイさんが言っていた「神様ではない質の悪いモノ」の意味が漸く理解できた。
「……それなら、なぜ黒田さんを巻き込むんです?」
僕ははっきりと聞こえるようにそう聞いた。すると、白神さんもその質問を予想していたようにニンマリと微笑む。
「簡単さ。琥珀も、私と同じ。君と一緒に死にたがっている」
「……黒田さんは……僕を憎んでいるんですか?」
僕がそう訊ねると、白神さんはキョトンとした顔をする。その後で、なぜか急に嬉しそうに笑いだした。
「あはは……憎んでいる……か。そうだな。憎んでいるよ。ある意味ではね。そして、琥珀は君と必ず一緒に死にたいと思っている……私以上にね」
「え……黒田さんが……どうして?」
「それはその時になって聞いてみるといい。それより、いいんだね? 私達と共に死ぬことに異論はないということで」
「は? そ、そんなの……」
無理だ、と言おうとすると、言葉が出なかった。
なぜなら、白神さんはまるで生気のない瞳で、僕のことをただジッと見ていたからである。
「異論はない……だよね?」
返事はできなかった……ただ、僕がやろうとしているのは、白神さんと一緒に死ぬことではない。
「僕は……必ず取り戻します」
僕がそう言うと白神さんはつまらなそうな顔をする。
「無理だ。そんなことはできない。適当なことは言わない方がいい」
「いえ。僕はやります。僕の曽祖父はできなかったかもしれないけれど……僕は必ず黒田さんをこんな儀式から救い出してみせます!」
僕がそう言うと白神さんは無表情で僕のことを見ていた。そして、フッと小さく微笑む。
「わかった。これでコイガミ様の話は終わりだ。帰ってくれ」
「え? 帰って、って――」
僕がそう言おうとした矢先、いきなり目の前が真っ白になったかと思うと、僕はそのまま意識を失ったのだった。