神呼ぶ所以
「これは……白神さんが書いた手紙?」
読んでいる間も、僕は恐怖していた。
まずその理由としては、手紙の文字が赤いのだ。
赤い……というか、それはどう見ても血液で書かれた物であった。
僕は指先が震えるのをわかっていたが、それでも一気に手紙を読みぬいた。
そして、手紙を読み終わり、顔を上げる。
「……え?」
僕は思わず声を漏らしてしまった。
「え……こ、ここは……?」
周囲を見回してみても……そこは、今まで僕がいた白神神社の境内ではなかった。
というか、周囲は暗かった。先程までは確か夕方だったはずである。
それなのに、既に周囲は夜になってしまっているようだった。
「な、なんで……」
「なんで? その手紙を読んだからさ」
僕の質問に、聞き覚えのある声が答える。
「え……あ、アナタは……」
「やぁ、久しぶりだね」
声のした方を見るとそこに立っていたのは……白神さんだった。
琥珀の姿ではない。僕が一番はじめに白神神社で出会った時の姿……真っ白な髪に、巫女装束の姿の白神さんだった。
「白神さん……どうしてここに……」
「ふふっ。どうして? むしろ聞きたいのは私だ。君はここがどこだかわかっているのか?」
「え……ここは……あ」
僕は今一度周囲を見回してみる……最初は暗くてよくわからなかったが……段々と目が慣れてきて僕も周囲の光景を把握することができるようになってきた。
「ここは……白神神社?」
目の前に見える本堂は……見覚えのあるものだった。鳥居もそうだ。
でもなんというか……どことなく古びているように見える。それこそ、もう何十年も前の建物のような……
「その通り。ここは、白神神社……ただ、君が私と最初に会ったのとは異なる……元々の場所にあった白神神社だ」
「え……じゃあ……これは……」
北地区にある旧白神神社……いつの間にか、僕は旧白神神社に飛ばされたっていうのか?
「ふふっ。まぁ、そう慌てないで。今日は君と久しぶりに二人きりで話したいから、君を読んだんだ」
「え……ど、どういうことですか?」
僕がそう訊ねると白神さんは嬉しそうにニッコリと微笑む。
「君に……必ず私と一緒に死んでもらうように、お願いするために、君をここに呼んだんだよ」
白神さんは至極普通のことを言うように、僕にそう言って見せたのだった。




