コイガミ様の話
親愛なるアダムへ
アダム。君はなぜ、私を裏切ったのか。
あんなにも約束してくれたことは、全て嘘だったのか。
君は私を裏切っただけでなく、この村から逃げた。
酷すぎる話ではないか。期待を持たせるだけもたせて、結局、君は私の願いを叶えてくれなかった。
いや、私も少しはわかっていた。君が私のことを助けてくれる存在ではないということを。
でも、期待をすることは私の自由だ。勝手な期待だったことは間違いないが、それでも私は期待したかった。
こんなくだらない風習から開放され、私が私として生きてける人生を、君が与えてくれるのだ、と。
しかし、実際はそうではなかった。
君は私のことをどうでもいいと思っていただろう。だから、期待させるだけさせて、それを実現させるつもりはハナからなかったのだ。
これで私に許してくれと、君は言うつもりではないだろう。
君はそんなこととは言わない人間だ。それは私もわかっている。
ならば、それでいい。私は君のことを今も愛している。
君以外の男と心中するつもりは、心底ない。
だから、私は君のことを許さない。
永遠に許さない。私が死んで、何年経っても。
君は私が知らないとでも思っていたのかもしれないが、私は知っている。
君の子孫は、いずれこの村に戻ってくることを。
その時、私は、私の無念を晴らす。
その理由は簡単だ。
私は君のことを愛しているからだ。
だから、何年経っても私は君にこう言うだろう。
一緒に死んでくれ、と。
黒田●●(●の部分は字が滲んでいてよく読めなくなっている)