意を決して
そして、僕とケイさんは階段を登りきった。
白神神社の境内には……
「……誰もいない」
僕とケイさん以外には……誰もいなかった。
白神さん……琥珀の姿も見えない……これでは八十神語りが開始できないではないか。
「いない……わね。特に何も言われなかったの?」
「え……ええ。特には何も……手紙だけですね」
僕がそう言うとケイさんは不審そうに、僕が持っている手紙を見る。
そして、覚悟を決めた目線で僕を見る。
「……手紙、読むしかないんじゃない?」
「え……よ、読むんですか?」
ケイさんのその言葉に、僕は思わず驚いてしまった。しかし、ケイさんは冗談を言っているわけではないようである。
「だって、読まなきゃ何も始まらないでしょ? まぁ……危険性はあるけど」
「え、ええ……だ、大丈夫なんですかね?」
僕がそう言うとケイさんは首を横に振る。
「残念だけど……大丈夫だってこと、今まででもなかったでしょ?」
ケイさんに言われて今までのことを思い出す……確かにその通りだった。
八十神語りを行った後は、紛れもなく不味いことが起こった……そして、それが今回も適用されるならば……
「……はぁ。でも……確かにそのとおりですよね」
ケイさんの言うとおりではある。
手紙を読まなければ……何も先に進まないのだ。
だとすれば危険を冒してでも、手紙を読む必要はあるのである。
「……わかりました。読みます」
僕がそう言うとケイさんも小さく頷いた。
「わかった。何かあったらすぐに読むのを中断してよ。気分が悪くなったりとか……ね?」
心配そうにそういうケイさん。僕もケイさんのことを真っ直ぐに見たままで頷いた。
「じゃあ……読みますね」
ケイさんにそう言ってから、僕は二つ折りになっている手紙をゆっくりと開いたのだった。




