歌
その夜、ベッドに入った僕はなんとなく不安だった。
まず、黒田さんのことだ。果たして、大丈夫なのだろうか。
黒田さん、そして、黒田さんのお爺さんが言っていたこと……そして、白神さんの狙いが僕ではなく、黒田さんだということ……
「白神さんは……どういうつもりなんだろう」
ふと、僕は呟いてしまった。暗い天井には、僕の意味のないつぶやきが吸い込まれていく。
正直、僕が考えてもわからないことなのだろう……きっと、僕に白神さんの話をしてくれた父さんにもわからないはずだ。
知っているのは、白神さんと……黒田さんのお爺さんだ。
黒田さんのお爺さんはまだ何か知っているようだった。それを、あえて言わないようにしている……僕にはそんな感じに見えた。
僕はそこまで考えて、大きくため息をついてしまった。
どうせ、考えたところで僕には何もわからないのだ……だとすれば、考えても仕方ない。
僕は問題から逃げるように思考を放棄し、そのまま睡魔に身を委ねた。
と、意識を失ったと思った矢先、何かが聞こえてきた。
それは聞き覚えのある声で、まるで歌のような……
でも、窓やドアは閉めているので、僕の部屋は現在完全な密室だ。
それなのに、歌はどこからともなく聞こえてくるのだ。
「……やそがみ……きたりて……?」
思わず僕は声に出してそう言ってしまった。
やそがみ……八十神ってことか。
僕は理解する。そして、その声の主が誰であるかも。
「白神さんの……声?」
思わず起き上がって僕は周囲を見回す。
しかし、もちろん、部屋の中には誰もいない。
僕は怖くなって、布団を頭から被ってみた。
しかし……歌は止まなかった。
まるで耳ではなく、頭の中に直接聞こえてきているかのような……
だが、不思議なことに、僕は眠くなってきてしまった。
まるで白神さんの歌が子守唄のように聞こえてきて……僕は今度こそ深く眠りに落ちていってしまった。
そして、僕は夢を見た。
不思議なことに、その夢は夢だと認識することができた。
いわゆる、明晰夢って奴なのだろうか。
夢の中で、僕は白神神社にいた。境内には、石の腰掛けに白神さんが座っているのが見える。
そして、優しげな笑みを浮かべながら僕のことを見ている。
一体どうして、白神さんは僕のことを……と、僕は背中に視線を感じて振り返る。
そこには、黒田さんがいた。白神さんとは正反対に、悲しげな顔で、僕のことを見ている。
「黒田さん……あ!」
僕は思わず叫んでしまった。
黒田さんの黒く美しい髪が……真っ白になっていくのだ。
まるで白神さんのように。
それを見ていると、僕はたまらない恐怖に駆られた。
そして思わず大声で叫んでしまった。
「黒田さん!」
そう叫ぶと同時に、僕は、ベッドの上で目を覚ましたのだった。