怨嗟の理由
「……信じられないなぁ」
思わず僕はそう言ってしまった。
「何が?」
ケイさんが人事のように云う。
「だって……僕のひいおじいさんは……外国人だったなんて……僕、顔つき、まるで日本人でしょ?」
僕がそう言うとケイさんはジッと僕のことを見る。
そして、小さく頷いた。
「そりゃあ……お爺さん、お父さんと、世代を経ているわけだし……黒須君にはあまりそういう血が出なかったんでしょ」
「でも、今までそんな話、身内の誰も……」
「意図的にしなかった……そう考えるのが妥当ね。おそらく、黒須君のお父さんも、きっと、そこまで詳しい話は聞いていない……ほとんどひいおばあさんがお墓まで持って行ってしまったんでしょうね。唯一、お守りと八十神語りの話だけを一族に残して」
並んで歩くケイさんはそう言いながらも少し寂しそうな顔で僕のことを見る。
「え……どうしたの?」
「……黒須君のひいおばあさんは、いつかこうなることを予見していた。クロス神父との間に子を産んだ自分とその一族を、怨みの中で死んだ白神さんは決して許してくれないだろう、って」
「つまり……僕が出会った白神さんは……クロス神父のことを……」
ケイさんは何も言わずに頷いた。
ということは、白神さんは最初から僕が何者であるかを知っていて、八十神語りに巻き込んだってことに……
「ええ。まぁ……気持ちはわからなくはないわ。村の勝手な掟で好きな人とは結ばれず、別の人とよくわからない儀式をやらされて、おまけにそのまま死んでしまって……これで怨みを持たない人がいたら、それは聖人ね」
ケイさんはそういってから、悲しそうに空を見上げる。
「……逆に言えば、白神さんは……黒須君のことを愛しく思っていると同時に……殺したい程憎んでいるわけ。だから……あの女の子の身体の居心地が良いって感じかなー」
「あの女の子……黒田さんのこと? 居心地がいいって……どうして?」
「……無論、黒田の一族の身体ってこともあるけど……アイツが取りついているあの子は……黒須君のこと、好きだと思うんだけど……それと同時に憎んでいると思うのよ」
「え……黒田さんが……僕を憎む? なんで?」
僕がそう言うとケイさんは呆れた様子で僕を見る。
「……まぁ、これは中々難しいか。私はわかるけど……たぶん、他の人はわかんないわー」
「え……だ、だからケイさん。なんで黒田さんは……」
「あー、そこはもういいから。とにかく、それ。明日、白神神社で見るのよ。わかってる?」
そう言われて僕は手にしたままだった白神さんからもたった手紙の存在を思い出したのだった。