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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第七神
134/200

終わりの始まり

 なんとなく気まずくなってしまい、僕は病室の外に出た。


 手にしているのは……先程、父さんにもらった十字架だ。


「……これを……父さんのお婆さんが……」


 父さんのお婆さんという人に僕は会ったことがないけれど……時代的には、クロス神父が白紙村にいた時代と同じくらいのはずである。


 そうなると、この十字架は……


「賢吾」


 名前を呼ばれてドキリとした。


 母さん……の声ではなかった。


 この声を僕は知っている……ゆっくりと声のする方へ顔を向ける。


「……琥珀」


 そこにいたのは……白神琥珀だった。


 相変わらずの雪のような白い髪に、優しい微笑み……その微笑みが、今の僕にはなんだか恐ろしく思えた。


「どうしたんですか? そんなに思い詰めた顔で」


「……なんでもないよ。それより……どうしてここに?」


 僕はそう言いながら、十字架をポケットにしまった。琥珀は既に十字架には気づいているようだったが……なんだかあまり琥珀には見せない方がいいように思えたのである。


「ふふっ。いえ……賢吾のお父さんが事故にあったと聞きましたから」


「どうやって? 病院の人は、ウチにしか電話してないと言っていたけど」


 僕がそう言うと琥珀はニッコリと微笑む。


 ……ここに琥珀がいる理由なんて、聞いたってどうせわからない。


 わかっていたのだ、琥珀には。


 父さんが最初から事故に合うということを。


「……そんなに怖い顔をしないで下さい。まるで私のせいでお父さんが事故にあった……そう言いたいんですか?」


「違う。そうじゃない。けど……」


「けど?」


 僕は少し言うのを躊躇ったが……でも、言わなければ始まらないということは理解していた。


「……全ての悪いことの原因に、琥珀……いや、白神さん。アナタがいることは知っていますから」


 白神さん、と言うと、琥珀の表情が変わった。


 そして、鋭い瞳で僕のことを見る。


「……なるほど。どうやら、覚悟ができたみたいだね」


 口調が変わった……もはや、目の前の少女を琥珀と呼ぶ必要はないだろう。


「白神さん……もう、終わらせましょう」


 そう言うと白神さんはニヤリと不気味に微笑む。


「終わらせる……か。面白いね、君も。終わらせるんじゃない。終わるんだ。八十神語りは始まったら終わる……どのような形でもね」


 そう言うと、白神さんは懐から何か手紙のようなものを取り出した。


「……さぁ。これが終わりの始まりだよ」


 そういって、白神さんは僕にその手紙のようなものを差し出す。


 僕は……恐る恐る、それを受け取った。


「白神さん、これは……あ」


 手紙から今一度白神さんに視線を戻した時……既に目の前には、白神さんの姿は見えなかったのであった。

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