因果を潰しに
それから、僕とケイさん、そして、番田さんは喫茶店テンプルにやってきた。
温かいコーヒーを飲むと、自分たちが無事にあの廃屋から脱出できたのだということをようやく実感することができた。
「……なるほど。灰村家が……そんなことを……」
番田さんは僕が話す内容を興味深く聞いていた。隣ではケイさんが不機嫌そうにオレンジジュースをストローで啜っていたが……
「……しかし、八十神語りを真似する、か。灰村家も危険な真似をしようとしたものだな」
「えっと……番田さん。その……以前僕達、あの家に行ったときは、普通の家でしたよね? でも、今回はまるで何年も使われていない廃屋のようになっていた……これは一体……」
「騙されてたの。あの家にね」
僕がそう訊ねると、ケイさんがすかさずそう言った。
「騙されてた……家にですか?」
「そう。あの家は最初に言ったけど……ヤバイ思念の集合体みたいな家だった。そして、あの家は私達……正確には、黒須君を家に引き込みたかった。八十神語りに関わっている黒須君をね」
「……えっと……どうしてそんなことを?」
「八十神語りの真似事をするために、八十神語りの影響下にある人間をあの家に招き入れたかったのよ。で、まんまと私達はそれに協力してしまった……結果として、あの異形が生まれたわけ」
異形……あの黒い着物の白髪の女性のことだ。
「……でも……どうして僕達は帰って来られたんです?」
僕がそう訊ねるとケイさんは呆れ顔で僕を見る。
「……黒須君。アンタ……わかっていてやったんじゃないの?」
「え……何を?」
「だから……私はてっきり、擬似的な八十神語りを、強制的に終わらせるためにあんなことをしたんだと……」
「え……あ、ああ! あれか……」
僕は廃屋の中でケイさんに言ったことを思い出し、恥ずかしくなってしまった。
実際……意識してやったことではなかった。ただ……漠然と思い出した。直前に番田さんから聞いた八十神語りが失敗してしまった時の話を。
だからこそあんなことをケイさんに言ってしまった……結果としてはそれが正解だったようなのだが……
「……とにかく、君たちの話を聞いていると、あの廃屋には、擬似的な白神さんが存在しているということになる。それが以前出会った灰村華なのかはわからないが……危険な場所になっているということは間違いないのだね?」
番田さんは至極真面目な顔でそう訊ねる。ケイさんは小さく頷いた。
「ええ。ぶっちゃけ、あれの対処はアタシにはお手上げだわ。まったくわかんないし。ただ……本家を潰せば多少はマシになるかもしれない」
「……つまり、それは……」
僕がそう訊ねると、ケイさんは鋭い目つきで僕を見る。
「決まってんでしょ。決着付けんのよ。この村でやりたい放題やっているお山の大将の神様とのね」




