帰還
「二人共大丈夫だったか?」
玄関から出ると、番田さんが心配そうに僕とケイさんに話しかけてきた。
僕は未だに外に出られたことが信じられず、番田さんのことを呆然と見ていた。
ケイさんも同様らしい。
「……えっと、あれからどれくらい時間経ったんですか?」
「ん? 時間?」
僕はなんとか番田さんに訊ねる。
「そうだよ。センセーさぁ……あんまり長い時間帰ってこなかったら助けくらい呼んでくれてもいいんじゃない?」
ケイさんが少し不機嫌そうにそう言う。
しかし、番田さんは困り顔で僕とケイさんを見る。
「あー……すまん。君たちがこの廃屋に入ってから……まだ5分も経っていないぞ?」
番田さんがすまなそうにそう言った。僕もケイさんもそう言われて目を丸くしてしまった。
「え……じゃあ……」
「なるほどね……まぁ、なんとなくそうかなぁ、って思ってたけど」
ケイさんはそう言って、チラリと僕のことを見る。
「黒須君……やっぱり、白神との決着はさっさと付けないとダメだね。この廃屋にいた奴は……モロにアイツの影響を受けているから」
「え……じゃあ、灰村さんは?」
僕がそう訊ねると、ケイさんは悲しそうに目を伏せる。
「……死んだ、って思ったほうがいいよ。私達が見たのは……何か別の存在だったと思った方がいい」
ケイさんのその言葉に、僕はもうそれ以上のことは何も聞けなかった。
「えっと、だな……さっそくで悪いんだが……二人共、この廃屋で何があったんだ?」
申し訳なさそうに、番田さんはそう言った。
すると、ケイさんは頬膨らませて、番田さんを睨む。
「ちょっとー、私も黒須君も、めちゃくちゃ疲れているんですけどー。こんな状態で何があったか話させるわけー?」
「あ……す、すまない……とりあえず、少し落ち着いた所へ移動しようか」
番田さんはそう言って、歩き出した。
「えっと……ケイさん?」
「ん? 何?」
僕とケイさんも歩き出したのだが……僕はある事に気付いた。
「その……もう、手、離してもいいんじゃない?」
僕がそう言うとケイさんも、二人の繋いだ手のひらを見る。
「……何? 私と手、繋いでいたくないわけ?」
「え? そ、そういうわけじゃなけど……」
すると、ケイさんはなぜか僕の手のひらを強く握ってきた。
「え……ケイさん?」
「……ありがと」
ケイさんは小さな声でそう言った。僕はいきなりのことに何も返事をすることができなかった。
「え……ありがとう、って?」
「……黒須君がいなかったら……たぶん帰ってこられなかったから……だから、ありがと」
ケイさんはそう言って歩き出した。僕の手を引いたままで。
恐ろしい体験だったが……なんとなく僕はケイさんという人間を少し理解できたような気がしたのだった。