絶対絶命
「え……灰村さん……?」
見た目は……確かに灰村さんに見えた。しかし、髪はそれこそ……まるで白神さんのように真っ白になっている。
おまけに彼女は笑っているのだが……その表情はとても不気味に見えた。
「……え……け、ケイさん、この人は――」
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
僕はそう訊ねた瞬間、ケイさんは絶叫した。隣にいた僕は鼓膜が破れんばかりに、いつものケイさんからは信じられない程の声で。
「え……け、ケイさん?」
「いや……無理無理無理……」
ケイさんはそう言いながら、僕と繋いだ手をギュッと握る。
それこそ、僕を逃さないと言わんばかりに強く握ってきた。
僕は今一度灰村さんらしき人物の方に顔を向けた。
と、その人物はニンマリと細めた目を開こうとしていた。
その瞬間、僕は直感的に不味いと思った。
目を見てはいけないのだ、と。理由はなかったが、僕は理解した。
「ケイさん!」
僕はそういって、未だに茫然自失状態のケイさんを無理やり引っ張って、そのままその人物の横を一気に通り過ぎた。
ケイさんの手は握られている。そのまま玄関までの廊下を一気に走り抜ける……
つもりだった。
「……え……な、なにこれ?」
いくら走ってもすぐ近くにあるはずの玄関が見えてこないのだ。
まるで長い廊下を走っているかのような……僕は思わず足を止める。
「ケイさん……これって……」
「無理……もう無理だよぉ……」
と、ケイさんは完全にノックダウン状態のようだった。
……といっても、これでは僕も不味い。
あのわけのわからない存在が今にもこちらに向かってくる……僕はまたしても直感的にそう思った。
「……ケイさん!」
僕は片手で思いっきりケイさんの肩を揺らす。ケイさんは少し我に返ったようだった。
「え……あ、ああ。黒須君」
「……あれがヤバイ存在だってのは、ケイさんの反応でわかったから……これからどうすればいい?」
すると、ケイさんはキョロキョロと当たりを見回す。
そして、しばらくすると黙ってしまう。
「……ケイさん?」
「……あははっ……はぁ……ごめん。黒須君」
そういって、ケイさんは顔を上げる。
その目からはとめどなく涙が溢れていた。
「ごめん……全然わかんないよぉ……」
泣きながらそう言うケイさんを見て、今の状況が相当不味いことを僕は理解した。