寂しい場所
しばらく北地区を歩く。相変わらず周りは不気味な感じで覆われている。
僕はいつも通り不安な気持ちになりながらも、なんとか灰村家に向かって歩く。
「……寂しいよね」
ふと、ケイさんがそんなことを言ってきた。僕は思わず立ち止まってしまう。
「え……寂しい?」
僕が訊ね返すと、ケイさんは少し悲しそうな顔で僕を見る。
「うん……なんというか……言っちゃ悪いんだけど、この土地そのものが、寂しいの。私も色々見てきたけど……ここまで寂しい土地は見たことがないよ」
寂しい……ケイさんの言う「寂しい」という言葉の意味がわからなかったが……ケイさんにはそれがわかるのだろう。
「……それは、白神さんのせいなの?」
僕がそう訊ねると、ケイさんは首を横に振る。
「違う。元から。そういう場所なんだよね、ここらへんは……さぁ、行こう」
ケイさんはそう言って、先へ行ってしまった。
僕は周囲を見回す。
荒れ果てた空き地、ボロボロの空き家……それは不気味であると同時に、確かにどこか寂しげだった。
まるで、かつてのように、また人々に戻ってきてほしい……そんな声が聞こえてくるようだった。
そして、それは、もしかすると……
「白神さんも……そうなのかな?」
ふと、いつか黒田さんが言っていたことを唐突に僕は思い出した。
忘れられてしまった神様。無くなってしまった信仰……
単純に八十神語りという呪術だけじゃない……白神さんのそんな無念が、もしかすると、今起きていることには関係しているのかもしれないと、僕には思えてならなかった。
「黒須くーん! 早く」
ケイさんの声が聞こえる。
僕は足早にその寂しい場所を立ち去ることにした。




