おかしな感覚
番田さんは辛辣な表情でそう言った。
なんとなくだが……僕はあまり驚いていなかった。
いや、あまりにも驚いてしまって……反応できなかったのかもしれない。
紅沢神社と白神神社の関係……そして、全ての元凶……
「……はぁ。どうしてそんなことしたのかなぁ……」
意外にも最初に言葉を発したのは、ケイさんだった。
「え……どうして、って……?」
僕が訊ねると、ケイさんは苛ついた様子で僕を見る。
「……だから、なんでそんな対処方法を取ったか、って話。最初から……白神神社なんて壊しておくべきだったのよ」
ケイさんは悲しそうな顔でそう言う。番田さんも小さく頷く。
「もちろん……リスクはある。だが……分かっていたはずなんだ。白神神社という場所が、あまりにも多くの因果を抱えてしまっていて……この世ならざる場所に近くなっているということも」
「……この世ならざる場所」
そう言われて、僕は北地区の旧白神神社を思い出す。
鳥居の向こうは、別の世界だった……もしかすると、それは既に今番田さんが話した出来事があった時点で、引き起こされていた現象なのかもしれない……
「……そういえば、クロス神父はどうなったんです?」
僕は唐突にそのことを思い出して、番田さんに訊ねる。
「ああ……残念ながら帰国した後のことはわからない。それに、どうやら帰ったというくらいなんだ。この村にクロス神父が残ったという記録が村にはないらしいからね」
「……ちょっと待って。せんせー。らしい、ってどういうこと? そもそも、その話、誰から聞いたわけ?」
ケイさんが怪訝そうな顔をする。番田さんは少し戸惑ったが、観念したように先を続ける。
「……灰村家にいた、あの老人だ」
番田さんがそう言うと、ケイさんは少し嫌そうな顔をした。
老人……僕達にも色々話してくれた青柳老人のことだ。
「彼は……色々知っていたよ。私以上に。最も、彼は昔からこの場所に住んでいるのだとすると、それも当然なのだろうが……」
「……せんせー。確かにアタシもそう思うんだけど……あのお爺さんのこと、信頼していいわけ?」
ケイさんのその言葉に、僕も番田さんも思わずケイさんのことを見てしまう。
「え……どういうこと?」
僕が訊ねると、ケイさんは目を鋭くして、今一度空き地を睨みつける。
「……どう考えたって、灰村家という一族はこの村で恨まれていた……それなのに、どうして灰村家に仕えているわけ? 可笑しくない?」
「それは……そうだけど……」
「それに……おかしいのよ。あの灰村って女……どうにもこの場所にそぐわない……何か間違っている感じがするのよね……」
ケイさんはそう言って腕を組む。
ケイさんの言っていることはよくわからなかったが……僕もとにかく、何かがおかしいということ、そして、とんでもないことが起きそうだということは理解できた。
「……さて、この足で件の灰村家に行くとしよう。また青柳老人から何か情報が得られるかもしれない」
そう言う番田さんはどこか少し嬉しそうだった……まぁ、八十神語りを研究している人にとってみれば、ここまで真相がわかってくるのは面白いだろうけど……
僕はどうにも、真相が分かる度に、一歩ずつ真っ暗な暗闇野の中へ足を踏み入れている……そんな感覚に襲われていたのだった。