災厄の連鎖
「……それって、つまり……白神さんが死んじゃったってこと?」
ケイさんが遠慮がちにそう訊ねる。番田さんは重々しく頷いた。
「ああ。つまり……その時の八十神語りは失敗に終わってしまったのだ」
「え……それじゃあ……村はどうなったんですか?」
番田さんは少し言葉を区切ってから先を続ける。
「……村自体にはそこまで被害はなかったそうだ。無論、戦争中だから厳しい局面もあったそうだが……厳しい目にあったのは、白神さんの相手の方だった」
「その……男性の方ですか?」
「ああ。彼は、徴兵されて戦争に行ったんだ。彼が赴いたのは南方の激戦地……二度と帰ってこられなくなると、誰もが思っていた。実際、村から彼とともに徴兵された若者は、全員帰らぬ人となっている」
「じゃあ……その人も?」
しかし、番田さんは首を振る。
「……彼は死ななかったのだ」
「え……死ななかった?」
番田さんの言葉に僕が訊ね返す。
「ああ。彼は傷一つ負わず村に帰ってきた。周りは最初は驚いたが、喜んだそうだ。しかし、彼自身は日に日に衰弱していったらしい……精神が」
「え……精神……ですか」
「……彼はしきりに『白神さんが呼んでいる』と口にしていたそうだ。そして、戦争が終わる年のある日……事件は起きた」
「もしかして……」
「ああ。白神神社の本殿で、彼は白神さんと同じ方法で自らの命を断った……首を吊ったままの状態で発見された彼の顔は……笑顔だったそうだ」
それを聞いて、背筋に冷たいものが走った。この白紙町……いや、白神村で、そんな恐ろしい事件があったなんて信じられないからである。
「……彼が死んだ後、彼の一族は没落してしまった。一族の多くの者が謎の死を遂げた。そして、村ではそんな彼と、彼の一族を弔うために、ある神社を建立したそうだ」
「……ちょっと待って。それって、まさか……」
ケイさんが嫌そうな顔で番田さんに訊ねる。僕も既に予測はついていた。
「ああ、それが、紅沢神社……白神神社の分社だよ」




