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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第六神
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災厄の連鎖

「……それって、つまり……白神さんが死んじゃったってこと?」


 ケイさんが遠慮がちにそう訊ねる。番田さんは重々しく頷いた。


「ああ。つまり……その時の八十神語りは失敗に終わってしまったのだ」


「え……それじゃあ……村はどうなったんですか?」


 番田さんは少し言葉を区切ってから先を続ける。


「……村自体にはそこまで被害はなかったそうだ。無論、戦争中だから厳しい局面もあったそうだが……厳しい目にあったのは、白神さんの相手の方だった」


「その……男性の方ですか?」


「ああ。彼は、徴兵されて戦争に行ったんだ。彼が赴いたのは南方の激戦地……二度と帰ってこられなくなると、誰もが思っていた。実際、村から彼とともに徴兵された若者は、全員帰らぬ人となっている」


「じゃあ……その人も?」


 しかし、番田さんは首を振る。


「……彼は死ななかったのだ」


「え……死ななかった?」


 番田さんの言葉に僕が訊ね返す。


「ああ。彼は傷一つ負わず村に帰ってきた。周りは最初は驚いたが、喜んだそうだ。しかし、彼自身は日に日に衰弱していったらしい……精神が」


「え……精神……ですか」


「……彼はしきりに『白神さんが呼んでいる』と口にしていたそうだ。そして、戦争が終わる年のある日……事件は起きた」


「もしかして……」


「ああ。白神神社の本殿で、彼は白神さんと同じ方法で自らの命を断った……首を吊ったままの状態で発見された彼の顔は……笑顔だったそうだ」


 それを聞いて、背筋に冷たいものが走った。この白紙町……いや、白神村で、そんな恐ろしい事件があったなんて信じられないからである。


「……彼が死んだ後、彼の一族は没落してしまった。一族の多くの者が謎の死を遂げた。そして、村ではそんな彼と、彼の一族を弔うために、ある神社を建立したそうだ」


「……ちょっと待って。それって、まさか……」


 ケイさんが嫌そうな顔で番田さんに訊ねる。僕も既に予測はついていた。


「ああ、それが、紅沢神社……白神神社の分社だよ」

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