災厄の根源
「……八十神語りを早めて実行させる……?」
番田さんがそう言った意味のわからないことに、僕は戸惑った。
番田さんも僕が理解できないのは当然だという顔で見ている。
「ああ、意味がわからないだろうが……そのままの意味だ」
「え……そのままの意味って……」
「……本来、八十神語りには一組の男女が必要だった。もちろん、その男女は互いに知り合いでなければならず……何より互いのことを信用しあっていなければならなかった」
「信頼……で、でも! 八十神語りが終われば、二人の男女は……」
「ああ、互いに死ぬ……そのためにこそ、互いのことを信用しあっていなければならない……それこそ、共に死んでもいいと思えるくらいに」
番田さんの話は衝撃的だった。共に死ぬ……いくらなんでも狂っている……そんなことがあって、いいのだろうか。
「で、話は戻るが……クロス神父の話す神を信奉してしまった白神さん……つまり、その時の黒田家の巫女は日に日にクロス神父との仲が良くなっていってしまった……無論、そんなことは灰村家が許すはずもない」
「……それで、どうしたんです?」
「簡単だ。白神さんに……別の相手を用意したんだ」
「……え?」
番田さんは少し先を言いよどんでから、先を続ける。
「……灰村家は、仮に白神さんに、共に八十神語りを行う相手が見つかってしまえば、否応なくクロス神父と関係する時間を減らすことができると考えた。そして、色の名字を持つ一族達……イロガミ様の中から、一人を白神さんの八十神語りの相手に差し出させることにしたんだ」
「え……それじゃあ……」
「ああ。そして……残念ながらその通りになってしまった。白神さんはその男性と八十神語りをしなければならなくなった。白神さんが次第にクロス神父と会う時間は減っていった……そして、開戦の少し前、クロス神父は帰国してしまった。それから、少しして八十神語りは完遂されたらしい」
「……それじゃあ、その当時の白神さんも……」
「いや、それが問題だったんだ」
「え?」
番田さんは眉間に深くシワを寄せる。
「……八十神語りが完遂すれば、関わった男女は共に死亡する……ところが、その時の八十神語りでは……死者は一人だけだったんだ」
「え……それって……」
「……男性の方が白神神社に向かった際には……既に白神さんは、神社の本殿で首を吊って死んでいたらしい」
衝撃の事実を述べて、番田さんも、僕も、そしてケイさんも絶句してしまったのだった。