隠された真実
番田さんが僕にしてきたのは、随分と突拍子もない話だった。
教会、宣教師……あまりにも急な話過ぎて僕は完全に戸惑ってしまった。
「……え、えっと……それは八十神語りに関係あるんですか?」
「ああ、大いに関係ある。クロス神父がこの村にやってきたのは、今から70年程前……この国が大きな戦争に巻き込まれる少し前だった」
「え……じゃあ……」
「そうだ。戦争が始まれば、クロス神父の立場も悪くなる……だから、開戦と同時にクロス神父も早々に村を立ち去り、国へ帰ろうとしていたらしい」
「らしい……帰れなかったんですか?」
「いや、最終的には神父は国に帰っている。問題は帰る前の話だ」
番田さんはそこで話を少し区切った。帰る前の話……どういうことだろう。帰れたならば問題なんてないんじゃないだろうか。
「当時の白神村にとって、宣教師という存在はまさに異様な存在だった。唯一の宗教施設であった白神神社の神しか知らなかった村人に、日本語を多少理解できていた神父は、別世界の神の話をした。神父の話がうまかったのか、それとも、村人が白神さん以外の神を求めていたのか……白神村には何人か神父が説く神を信奉する者が出てきたらしい」
「え……そ、そんなの……大丈夫だったんですか?」
思わず僕は聞いてしまった。今までの話を総合すれば……白神村でそんなことが許されるはずがない。
番田さんは小さく頷く。
「ああ。無論、そんなことは許されない。もちろん、当時の灰村家の当主も対策に乗り出したそうだ。だが……あろうことに最大の問題が起きた」
「え……最大の問題……?」
番田さんは少し話を区切ってから、思い詰めたような顔で先を続ける。
「……当時の白神さんが……神父の説く神を信奉するようになってしまったのだ」
番田さんは苦々しい顔でそう言う。ただ、僕はそう言われても理解できなかった。
「え……それって……」
「……要するに、今まで信じてきた神様より、別世界から来た神様を信じたくなっちゃったってことでしょ?」
ケイさんが少し呆れた感じでそう言う。噛み砕いた言い方を聞いて、僕も理解できた。
「……ああ。無論、それは白神村にとって最大のスキャンダルだった。灰村家にとってもそれは公になってはいけない事実だった……だからこそ、早々に問題は握りつぶさなければならなかった」
「……握る潰すって……それは……」
僕がそう訊ねると、番田さんは少し気まずい顔をする。
「……当時の白神さんに、強制的に八十神語りを展開を早めて実行させる……それが、灰村家の選んだ対策だったんだ」




