表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第六神
115/200

実在性

「……終わり、ですか?」


 僕がそう訊ねると、琥珀は小さく頷いた。


 ……なんだか、話というよりも……呪文のような……


「この話が終わっても、不思議なことは起こりませんよ」


 琥珀はそう言った。僕は思わずキョトンとしてしまう。


「え……それは……」


「イロガミ様の意味……賢吾はわかっているでしょう?」 


 そう言うと、今まで座っていた小さな腰掛けから立ち上がり、琥珀は神社の鳥居の向こうを眺める。


「イロガミ様は……この村の至る所にいます。いて当たり前の神様です……皆が忘れているだけ。だから、不思議なことなど起こりません」


「……ねぇ、琥珀。その……黒ってのは……黒田さんのことなの?」


 思わず僕は訊ねてしまった。黒と白……そして、他の色。


 それはつまり、八十神語りの生贄にかんする話……今、琥珀が僕に話したのはその話の暗喩だったのではないか。


 琥珀はこちらに向き、じっとその目で僕を見る。


「……分かっているのではないですか。賢吾は」


「え……ぼ、僕が?」


「ええ。アナタが知っている黒田という少女……その子はどういう目をしていましたか?」


「え……目?」


 そう言われて、僕は琥珀の目を見てしまう。


 琥珀の目の色は……白く見えた。白い瞳だ……そんなはずはないのに。


 でも、その目を見ていて、僕は黒田さんの目を思い出す。


 いつも悲しそうな目をしていた黒田さん……黒田さんは、何が悲しかったんだろうか。


 それは、やはり八十神語りに関係していたのだろうか、それとも……


「賢吾、アナタは知りませんよね。あの少女のことを」


「え……そ、それは……」


「知らないのに、アナタは、帰ってきてほしいと思っている……おかしな話ではないですか。本当にその少女はいたんですか? それは本当に実在した少女だったんですか?」


 琥珀の目を見ていると、段々と辺り一面が白くなってきてしまった。


 まるで、ここには僕と琥珀しかいないような感覚……おかしいと思っていても、抗えなかった。


「ですから……もういいのではないですか?」


「……え?」


「……黒田という少女はいなかった。アナタが返ってきてほしいと思う必要もない……ただ、アナタは白く染まっていくことだけを考えればいい……ね?」


 僕は琥珀から目を逸らせなかった……まずい……このままでは……本当に琥珀の言う通りになってしまう。


 せっかく思い出せたのに、また黒田さんのことを――


「あのさー、何やってんの?」


「へ? 痛っ!」


 と、いきなり僕の頭に鈍い一撃が炸裂した。


 瞬間、僕の辺りの光景が元に戻る。


「あ……ケイさん」


 見ると、目の前にはケイさんが不機嫌そうに立っていた。


「はぁ……心配して来てみれば……やっぱりだめじゃん」


「え……あ、あれ? 琥珀は?」


 僕は今一度、琥珀の方に顔を向ける。しかし……


「いない……」


 いなかった。琥珀は……やはりいなかった。


「いたよ。さっきまではね。でも、アタシが来たから帰ったの」


 そういって、ケイさんは歩き出してしまった。僕は慌ててその後を付いて行く。


「え、えっと……イロガミ様の話は終わったんですけど」


「わかってるって。だから、行くんでしょ」


「え? 行くって……」


 僕がそう言うと、ケイさんは小さくため息をついた。


「あの薄気味悪い家……灰村家だよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ