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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第六神
110/200

古来よりの話

「……元々、白神神社の主神は、このような白い蛇でした」


「え……蛇?」


 そういって、老人は僕とケイさんに酒瓶に入った白い蛇を指さす。


「ええ。昔、白神村の周囲には巨大な白い蛇がいて、数十年に一度、生贄を要求してきたそうです」


「生贄……ですか」


「ええ。村人は蛇を神と崇め、生贄になることは名誉なことだとして、ある一族にその役目を担わせることで、生贄を捧げていました。そして、その生贄になったのが白神さん……白神神社の巫女のこと……つまり、黒田家の巫女だったのです」


 僕はゴクリと生唾を飲み込んでしまった。ケイさんも真剣な様子で話を聞いている。


「無論……それは江戸時代より前……古来の話です。それこそ、私のような老人しか知らない……御伽噺のようなものです。先程、あの学者先生にも話しましたが、そんな伝承は知らないと言っていました。ですから、それが本当かどうかはわかりません。ですが、私は少なくともそう教えられてきました」


 すると、老人は再び瓶からコップに酒を継ぐ。瓶の中の白い蛇の顔が、水面から少し出てきて不気味だった。


「ちょっと待って」


 と、ケイさんが老人に対して訊ねる。


「……さっき話したように、黒田家は白神神社の神職を担当する一族……巨大な蛇の生贄になっていたのも黒田家……そんな黒田家が村人たちのために豊作祈願のための八十神語りを始める……それっておかくない? 私だったら絶対やりたくないんだけど」


 ケイさんにそう言われると老人はゆっくりと頷いた。


「ええ。灰村家も……そう思ったのです」


 そして、老人はそのまま間を開けずに先を続ける。


「八十神語りで死者が出ると、灰村家はすぐに、八十神語りが、豊作祈願ではなく、黒田家の呪いの儀式だと思い込みました。ですから、村の中でイロガミ様を決めることにより、生贄になる役割を決めたのです。それこそ、古来、黒田家が、白い蛇の生贄になることを村人から勝手に決められたように」


 老人の話を聞いていると、それこそ、古い時代に飛ばされるような感覚だった。


 そんな邪悪な取り決めが、僕の住んでいる町で、かつて行なわれていたっていうのか……


「……で、まぁ、なんとなく白神さんが邪悪な怨霊ってのはわかるけど……それだけ? あんまりインパクトに欠けるんだけど」


 ケイさんは歯に衣着せず、老人にそう云う。すると、老人は少し躊躇った後で先を続けた。


「……アナタ達も子どもではないから、言ってしまいましょう。八十神語りを行った後、関わった男女はどのように死ぬと思いますか?」


「……え? どのように死ぬって……死因ですか?」


「ええ」


 僕とケイさんは思わず顔を見合わせる。


「……そんなの、呪いの力によって死ぬんでしょ?」


 ケイさんが当たり前であるかのようにそういう。


 しかし、老人は首を振った。


「……男女は……抱き合ったまま死んでいるんです」


 老人は重々しい感じでそう言った。その話を聞いて僕もケイさんも何も言えなかった。


「え……それは……」


 僕が先を続けようとすると、老人はそれを制した。


「この話は……八十神語りの最後に関わるので詳しくは話せません。話せば私もタダではすまないでしょう。まぁ……そもそも、実際に見たことはないので詳しくは知らないのです。ですが、聞いた話では……女が男に、まるで蛇のように絡みついて互いに死んでいた、と……」


 さすがに僕もケイさんも言葉を無くしてしまった。


八十神語りの先に待ち受けるのが死であるということでも相当衝撃なのに……おまけに、そんな死に方……


「……そろそろ、限界ですかね」


 不意に老人は酒瓶を持って立ち上がった。


「これ以上は遅くなってしまいます。白神さんが怨霊である由来の話はまだ続くのですが、後々……というよりも、イロガミ様の話を、黒須さんが白神さんから聞いた後、またしましょう」


 老人にそう言われてしまうと、僕もケイさんもどうしようもなかった。


 結局、その日は老人に別れを告げ、北地区の灰村家を後にしたのだった。

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