表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第六神
107/200

変容

「じゃあ……元々は、八十神語りは……村人のために行なわれたものだったんですか?」


 僕は今一度青柳さんに訊ねてしまう。青柳さんは小さく頷く。


「ええ。純粋な豊作祈願の祈り……生贄などとは無縁の儀式でした。無論、八十神語りという形態は変わりませんでした。村民に対して神様の話をして……ただ、その話の内容は開始された当時は大分異なっていたようですが」


 青柳さんは悲しそうな顔でそう言う。


「……で、いつから生贄を捧げるような儀式になっちゃったわけ?」


 ケイさんも少し気の毒そうな顔で青柳さんに訊ねる。


 青柳さんは少し間を置いてから……僕とケイさんを見た。


「……灰村家に、目をつけられてからです」


 忌々しそうな感じで青柳さんはそう言った。


 なんとなくそうではないかと思っていたが……やはりその通りだったようである。


 しばらくの沈黙が客間に流れる。


「……灰村家は一体何を……?」


 重い雰囲気の中、僕はなんとか青柳さんにそのことを訊ねる。


「まず……八十神語りが行なわれていることを知った灰村家は激怒したそうです。村長である自分に内密で、そんな儀式が行なわれていたのですから、それもそうでしょう。そして、灰村家は黒田家に一つの要求をしました」


「……要求?」


「ええ。八十神語りをするのは、女性……しかも、白神神社の巫女に限るようにしろ、と」


 青柳さんはそれから大きくため息をつく。


「そして……八十神語りの対象にするのは村民の中でも1人の男だけにしろ……その1人というのは、灰村家が選ぶ……そういう形態にするように要求したのです。無論、黒田家は八十神語りの形態を変えることを嫌がったそうですが……当時は大きな力を持っていた村長の一族である灰村家には逆らえませんでした」


 ……灰村家が選んだ1人? 初めての情報だった。


 僕が知っていたのは八十神語りはもっと多くの人に聞かせるというイメージだったのだけれど……それも、もしかすると、灰村家に儀式がバレる前の形態だったのだろうか。


「……ん? で、でも……それで生贄の儀式になったっていうのは、おかしいのでは?」


「……ええ。能動的になったというよりも、受動的になってしまったといった方が正しいかもしれません」


 青柳さんの言葉に、思わず僕とケイさんは顔を見合わせる。


「え……それは一体……」


「……灰村家にバレてから、新たに形態を変えて八十神語りを始めたわけですが……どういうわけか、八十神語りが終わると……それに関わった男女が不思議な死を遂げることになってしまったのです」


「え……ちょ、ちょっと待って下さい。僕が聞いたのは、八十神語りを途中でやめるとそういうことになるって話だったんですけど……」


 しかし、青柳さんは大きく首を横に振る。


「いいえ。八十神語りを完遂させると同時に、それに関わった男女は死亡しました。もちろん、途中でやめても同様です」


「なにそれ……それって、つまり……」


 青柳さんは重々しい調子で、なんとか先を続ける。


「ええ。八十神語りは始めてしまったら最後、関わった男女を死に追いやる恐ろしい儀式になってしまったのです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ