老人の話
「……えっと、ケイさん」
僕は思わず隣に座っていたケイさんに話しかけてしまった。
ケイさんは面倒くさそうにこちらを向く。
「……何?」
「その……あのお爺さん……何者なのかな?」
おそらくケイさんも気になっていることを、僕は聞かずにはいられなかった。
予想通り、ケイさんはそんなことがわかるはずがないだろうという顔で僕のことを見る。
「……さぁ? でも、灰村があそこまで信用していたってことは、本当に灰村の使用人なんじゃないの?」
「だったら、なんで灰村を眠らせて……そこまでシて僕達に話したいことがあったっていうの?」
「そうなんじゃない? まぁ……なんとなく、私には予想は付いているけど」
ケイさんはそう言ったが、それ以上は話してくれなさそうな雰囲気だった。というか、僕自身もあまり聞けなさそうな感じだったのだが。
そして、その直後のことだった。
「ああ、すいませんね」
そういって、客間の扉を開けて、先ほどの老人が帰ってきた。
灰村が食事の席でいきなり倒れてしまった直後、老人は僕とケイさんに話があるから、客間で待っていてくれ、と言ったのである。
老人に言われた通りに、僕とケイさんは客まで待っていることにした。そして、ついに老人が僕とケイさんの目の前に現れたのである。
「……で、話って何?」
ケイさんがぶっきらぼうにそう訊ねる。僕は落ち着かなかったが、老人はニコニコと笑っていた。
「ああ、いえ。その……貴方達に、八十神語り……そして、白神神社の話を、正確にしようと思いましてね」
「え……正確に?」
僕がそう聞き返すと、老人は小さく頷く。
「ええ……お嬢様には偽名を使っているのですが……私の名前は青柳、と申します。青い柳と書いて青柳です」
青柳と名乗った老人……僕にはその意味がすぐにはわからなかった。
しかし、先ほど灰村が言っていた、色が入った苗字の村民がいるという事実……そのことを思い出すと、老人がなぜ、そんな名乗り方をしたのかは理解できた。
「え……それじゃあ……」
僕がそう言うと、青柳老人は深く頷く。
「ええ。八十神語りのイロガミ様……その役割を担わされていた白神村の一族……その生き残りが、私です」