運命
イロガミは……村民?
しかも、僕のような苗字を持った村民……いきなりそう言われても、僕にはなんのことやら理解できなかった。
「なにそれ。どういうこと?」
僕の代わりに、ケイさんが率直に灰村に訊ねた。
灰村は意味深な笑みを浮かべて僕とケイさんのことを見る。
「かつて……この村には色の苗字を持つ村民がいました。大多数は農民でしたから、おそらく、明治時代にはいってからのことだと思います。その人達は白神村の中である役目を担わされることになったのです」
「……役目?」
「はい。それこそが、白神さんの生け贄の役割です」
灰村は躊躇わずにそう言った。さすがの僕も、その瞬間には何を言われたのか理解できなかった。
生け贄の……役目? それじゃあ……
「……生け贄をやらされる役は……最初から決まっていたわけね」
ケイさんが忌々しそうにそう言う。灰村は小さく頷いた。
「ええ。この話を番田先生に話したのです。番田先生は大層驚かれていましたよ。つまり、黒須君。君は……どうあっても生け贄になる運命だったのです」
灰村は嬉しそうにそう言った。僕は灰村に何も返事することができなかった。
「……ちょっと待ちなさいよ。アンタだって、苗字に色が入っているじゃない」
と、ケイさんは少し怒り気味にそういった。灰村はそう言われることを承知していたようで、小さく頷く。
「ええ。しかし、村長を担う一族であった灰村家としては、八十神語りの生け贄になるわけにはいきませんでした。ですから、神社を司る黒田家と、神様である白神さん、そして、他の色の苗字を持った一族の間をとりもつ役目を担うことになったのです」
「……なるほど。白と黒の間をとりもつから、灰色……洒落ているじゃない」
ケイさんは皮肉っぽくそう言った。灰村はニヤニヤしながら僕のことを見る。
「ですから、残念ですが……黒須君。どうか、もう諦めて八十神語りを完遂させるところを私や番田先生に見せてくださいね」
「そ、そんな……」
……いや、僕自身がどうなってしまうかもそうなのだが……問題は黒田さんだ。
一体それじゃあ、黒田さんはどうなってしまうのか。やっぱり、僕は二度と黒田さんと会うことができないのだろうか……
「お嬢様。お食事の用意ができました」
と、いつ帰ってきたのか、客間の外から老人の声が聞こえてきた。
「……では、話の続きは食事の間にでもしましょうか」
灰村は相変わらずニヤニヤしながらそういって立ち上がった。仕方なく、僕とケイさんも食事をすることにしたのだった。