一族
「え……ケイさん、何言って……」
僕は思わずそう尋ね返してしまった。ケイさんは小さくため息をつく。
「……だから、今の灰村の話を聞けば、八十神語りはそもそも灰村家、そして、黒田家しか関わらないような秘術だった……そういうことになるんじゃないの?」
「え……で、でも……父さんは八十神語りのこと知っていたし……」
「それがおかしいの。まず、八十神語りが白神さんに生け贄を捧げる儀式であった以上、普通の村民が知っているわけないでしょ?」
ケイさんにそう言われて、僕はようやく理解した。
それは……そうだ。生け贄を捧げる為の儀式ともなれば、それを村人たちが容認するわけがない。
それに、現在においても八十神語りの存在が白紙町に残っていないことが、一般の人がその存在を知らなかった何よりの証拠じゃないか。
「で、でも……白神神社では例大祭が……そこで、八十神語りをやっていたんじゃないの?」
「……たぶん、カモフラージュでしょ。おそらく、そこで行われていたのは、仮初の八十神語り……いや、そもそも八十神語りという名前さえ、出していなかったのかもしれない。だけど、アンタのお父さんのお婆さんとやらはそれを知っていた……それがどういうことか、わかるでしょ?」
わかりたくはなかったが……僕は理解した。
そして、思わず言葉に出してしまった。
「……僕の家も……八十神語りに関係していたってこと?」
僕がそう言うと、可哀想なものを見るような目で、ケイさんは僕を見た。
……いやいや。さすがにあり得ない。
だって、父さんはそんなこと、一言も言っていなかったし……
でも……父さんも知らないだけなのかもしれない。父さんのお婆さん……つまり、僕の曾祖母は一体何者だったのか。
「……つまり……僕も白神神社の関係者なのかな?」
「さぁ……本家と分家……そういう関係性かもしれないけど……それにしてもあまりにも阻害されすぎているし……もっと、別な関係性なのかも」
ケイさんはいつになく真剣そうな顔でそう言う。僕も何をどう言ったらいいのかわからなかった。
「まぁ……それは黒須君の曾祖母の問題なのか、それとも、黒須君の一族そのものの問題なのか……それはなんとも言えないけどね」
「……ケイさん。言われてみて思ったんですけど……僕、知らないんです。自分のご先祖様や一族がどんな存在だったかなんて……」
「ん? あー。それは当たり前でしょ。むしろ、そんなの知っている方が珍しいし……まぁ、とにかく、せんせーとあの女が帰って来るの待ってるしかない――」
「はい。お待たせしました」
と、不意に扉を開けて現れたのは……灰村と、浮かない表情の番田さんだった。




