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一人と一匹、夜を征く  作者: 水尾
第一章 ハルモニア王国南部
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八 街の中へ

 村を出て三日目の夕方。

 私とユリアは、ミネラの街を囲む高い外壁の前に立っていた。人間が三人縦に並んだぐらいの高さで、がっちりした石組みで造られている。壁の上には等間隔に武装した兵士が立ち並び、盗賊や化物の影に目を光らせていた。

「やっと着いたな……」

 ユリアが嘆息した。

「おいおい、まだ三日目だぞ」

「そうだけどさ」

「ところで、どうやって入るんだ?」

「壁に沿ってしばらく歩けば、門があるはずだ。俺は護衛として今までに四回来たことがあるけど、こっちの門から入るのは初めてだな」

 私たちは、壁に沿って右側に歩き始めた。

「門が幾つかあるのか」

「ああ、東西南北の四つの門がある。北門は中央街道と、西門は南街道とそれぞれ繋がってる。俺たちが向かってるのは南門だ」

 私は、ふと思い浮かんだ疑問をそのまま口にした。

「西門なのに、南街道なんだな」

「ああ、南部にあるから南街道。北部にはいくつかあるけど、南部に街道はひとつしかないんだ」

「なぜだ? 北部も南部も広さは同じぐらいだろう」

 ユリアは「それはな……」と言いかけてからしばらく口をぱくぱくさせ、困ったように頭を掻く。

「口で言うのが難しい。地図を買ってから説明するよ」

「ふむ、楽しみにしておこう」

 やがて、門が見えてきた。頑丈そうな木材でできた門扉の前に、屈強そうな兵士が二人立っている。私たちは、兵士に声が聞こえない程度の距離をおいて立ち止まった。

「入れるのか?」

「俺は護衛としてしか入ったことないからわからんけども、たぶん大丈夫だ」

「待て待て」

 私は慌ててユリアを押しとどめる。

「門では、何を聞かれるんだ」

「旅の目的とか、年齢、職業……そのぐらいじゃないか?」

「お前、聞かれたらなんて答えるつもりだ」

「そりゃあ……正直に?」

「馬鹿!」

 私は呆れ返った。王都へ手紙を届けに行きますとでも言うつもりか、こいつは。そもそも、相当若くて剣を帯びていて珍しい髪と瞳の色で、おまけに傷だらけ……と、はっきり言って怪しまれる要素しかない。

「何か、怪しまれないような答えを用意しておく必要があるだろう」

「言われてみればその通りだな」

「何が言われてみれば、だ。このあんぽんたん」

 あんぽんたんと言われていたく憤慨しているらしいユリアを尻目に、私は考えた。剣を持っていても怪しまれない職業。街に来た理由。年齢はややサバを読むとして……。

 閃いた。

「ユリア、護衛士だ、護衛士!」

「何だよ」

 やや不機嫌な口調のユリア。まだあんぽんたんを根に持っているのか。

「この阿呆、拗ねてる場合か! 職業を聞かれるんだったな。十四歳以上は剣を持つというラピスの習慣を兵士が知っているとは限らないだろう? お前のような若者が剣を持ってると怪しまれるだろう。自分は護衛士だと言えば良いのだ。護衛士なら剣を持ってても怪しまれないし、馬を買いに来たと言えば理由も自然じゃないか」

「確かにそうだな!」

「年齢は……まあ二十二ということにしておけ。ラピス出身だということは秘密にしておこう。ボロが出ないようにな。できるか?」

「わかった、任せろ」

 ユリアはずんずん歩いて行った。私は胸に一抹の不安を抱えつつも後を追う。

 門の前で立ち止まると、兵士たちは明らかに私たちのことを怪しんでいた。無理もない。私が兵士でも、同じように怪しんだだろう。

 しかしユリアはどこ吹く風、すいすいと歩み寄ると、手を挙げて挨拶した。

「こんにちは、お役目ご苦労様」

 二人の兵士はやや鼻白み、それから問いかけてきた。

「何用だ」

「馬を買いに来ました」

 ユリアの答えは淀みなかった。

「一人でか」

「二人です」

「……一人と一匹だな」

「そうとも言うね」

「名前は」

「ユリア」

「職業は?」

「護衛士」

 一人が胡乱げな顔をする。

「お前、何歳だ」

「二十二だよ」

「若く見えるが?」

「ああ、よく言われる」

 ユリアは平然と頷いた。

 街に入るのを拒むほどでもないと判断したのだろう。二人の兵士はやや躊躇ってから、「街中で剣を抜くんじゃないぞ」と釘を刺しつつ扉を開けてくれた。

 たちまち、ざわめきと喧騒が開けた扉から噴き出してきた。石畳が敷き詰められた大通りは果物を売る人、それを買う人、大道芸人、物乞い、客を引く遊女、そしてそれらに目もくれず忙しげに行き交う人々など、様々な人々でごった返している。広い道の両側には、路面と同じ石造りの建物が所狭しと立ち並ぶ。日がほとんど沈み、まだ空は明るいものの道路の脇に一定間隔で並ぶ松明には既に火が灯っていた。

「これがミネラか……」

 私は眼前の景色に圧倒され、呆然として呟いた。

「ほれ、中に入るぞ」

 ユリアは慣れているらしく、さしたる感慨も見せずに平然と足を踏み入れた。

 南部最大級の都市ミネラ。これほどとは……。

「そういえば、お前は初めてだったな。俺は五回目だけど」

 ユリアは歩きながら説明してくれた。

「ミネラってのは計画都市なんだ。まだ歴史は浅い。なにしろラピスより新しい街だからな。だから、そのぶん道とか建物には最近の技術なんかが使われてる。で、上から見たらほぼまんまるい形をしてる。ここはウィルトゥス通り、北門と南門を結ぶ大通りだ。で、西門と東門を結ぶのがウィクトリア通り。この二つの大通りがミネラを四つの区画に分けてる。それぞれに名前が付いてて、確かセメル、テーグラ、あと、なんだっけ、えーと……ああ、忘れちまった」

 私は笑いながら言った。

「だいたいわかった、ありがとうユリア」

「今から地図だけ買って、飯を食って、宿屋を探そう。明日になったら馬を買って出発だ」

「うむ」

 私はユリアの後ろをとことこと付いて行った。ユリアは迷いなくずんずん進んで行く。途中で折れ曲がり、やや細い道に入り、また折れ曲がってはもう少し細い道に入った。やがて、ユリアは一つの小さな建物の前で立ち止まった。やや古びた看板が掲げてある。ひとつだけある窓からは灯りが漏れていたが、中は見えない。

「何か欲しかったら、大概はここで揃う。この街に来るたびにここに来てるからな、もう道は覚えてるぜ」

 ユリアは得意げな顔をした。

 私は看板の文字を読んだ。日が落ちて辺りが暗くなっている上に、かすれていて読みにくい。

 《ミセリアの店 ご入用のもの、何でもお申しつけください》

「……雑貨屋か」

「そんな感じだな。何かが欲しいって言ったら、すぐに店の奥から持ってきてくれるんだ。どれだけ広い倉庫があるんだろうな」

 ユリアが扉の横にある呼び鈴をチリンチリンと鳴らすと、扉は軋みながらひとりでに開いた。明るい光が店の中から路地に零れ出す。

「毎回思うけど、この扉も不思議だよなあ」

 そう呟きつつユリアが中に足を踏み入れると、「いらっしゃい」と柔らかな声がした。

更新ペースとしては、平日は隔日か二日おきに一話、土日に一話ずつ…という形にしたいと思います

アイデアが出なかったりしたら乱れると思いますので、あくまでも目安ということで…

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