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一人と一匹、夜を征く  作者: 水尾
第一章 ハルモニア王国南部
5/57

四 四人の盗賊

少しR15要素が入っています。

苦手な方はご注意ください。

 村を出て、ひたすら歩き続ける。

 最初の目的地ミネラは、アルカナ山脈の麓にある南部最大級の都市だ。北部と南部をつなぐ中央街道の終点であり、南街道の出発点でもある。

 ラピスからは歩いておよそ一週間かかるが、それは一旦南街道に出たらの話である。曲がりくねった南街道に沿って進むよりも、最短距離を行ったほうがよい。舗装されていない道や森を通ることになるが、私とユリアなら三日で着くだろう。

 まばらに雑草が生えている程度の荒れ地を歩き続け、やがて昼になった。

 適当な石に腰掛けて昼飯を食べながら、二人して先程の剣を眺める。それは間近で見ると灰色のような銀色のような、不思議な色合いをしていた。握りの部分には黒いなめし皮が巻いてあり、触ってみると肉球に吸い付くような感触である。

「一体何を使ったらこんな剣になるんだ……?」

「何を、とはどういうことだ?」

「俺が知ってるのは鉄、銅、鉛、それから金銀ぐらいだ。でも、こんな素材は今まで見たこともない」

「お前の知らない金属というわけか?」

 今まで村の鍛治仕事を手伝ってきたユリアが知らないのなら、きっと珍しい金属なのだろう。

「ああ……それか合金だろうな」

「合金の扱いは難しいのではなかったか?」

「ああ、難しい。それに……」とユリアは言葉を切って、剣を握って軽く振った。

「重心が偏ってる。合金にしろ単体にしろ、何種類かの金属を内部で組み合わせてあるみたいだ」

「偏ってる、とは?」

「先端のほうが少し重くなってるんだ。だから振り回しやすいし、威力も大きい。例えるなら……鉄の棒より鉄の塊に紐を付けたもののほうが振り回しやすい、って感じだな」

「ほう」

 私は感心した。

「よく工夫してあるものだな」

「鉄を糸にするぐらいだしな、このくらいやれるだろうさ」

「なるほどな」

 私は頷いて、さっき捕まえてきた二匹のバッタのうち一匹を噛み砕いて飲み込んだ。

 ユリアが露骨に嫌そうな顔をしたので、私は「お前も食べるのか?」と言って前足で押さえていたもう一匹をユリアの口目掛けて投げつけた。狙いはやや逸れてユリアの鼻に当たり、ユリアが無言で剣を抜き放ったので私は慌てて「冗談だ冗談だ」と言いつつ草むらに逃げこんだ。沸点の低いやつである。


 それから四ドゥム(二時間)ほど歩き続けると、荒れ地は草原へと変わり、目の前には大きな森が見えてきた。鬱蒼として何やら怪しげな雰囲気を漂わせている。

「ユリア、森があるぞ」

「ああ、あれはシレントの森だ。街道が曲がりくねってる理由の一つは、あの森を避けるためだな」

「切り開けばよかろう」

「昼は盗賊、夜は怪物が出るらしい」

「縁起でもない……」

 近づくにつれ、森はますます陰鬱とした雰囲気を濃くしていった。多様な種類の樹木には蔦が絡みつき、地面は下草や苔で覆われている。ラピス村の近くにも森はあるが、そこはもっと明るく、開放的な場所だったはずだ。

「ユリア、お前……あの森に入ったことは?」

「ない」

 答えは一瞬で返ってきた。

「森を抜ける道筋を知っているのか?」

「知らん」

「それじゃ、どうやって森を抜けるつもりだったんだ?」

「……考えてなかった」

「阿呆!」

 これだからユリアは! 剣の扱いと鍛治仕事以外に関しては馬鹿としか言いようがない。いや、無鉄砲というべきか。考えればわかるはずなのに、どうして何も考えずに行動するのか理解に苦しむ。

「……まあ、なんとかなるさ」

 ユリアが笑いながら言った、そのとき。

 風音を立てて、森のほうから一本の矢が飛んできた。

「!」

 ユリアは横に跳んで矢を避けつつ、背負っていた背嚢を投げ捨て、腰から剣を抜き放って身構えた。

「ちっ、避けられちまったか」

 森から出てくる人影が四つ。

「おいおい、妙な髪の色したガキが一匹か」

「しかも男だ、これじゃ売れねえな」

「あんまり金持ってそうにも見えねえなあ」

 汚らしい服装に、下卑た喋り方をする男たち。間違いない、盗賊だ。そいつらはニヤニヤ笑いながら近づいてきて、私たちの前に立ちふさがった。錆びた剣をちらつかせつつ、脅すような声で言う。

「おい、殺されたくなかったら金と荷物と服全部差し出しな」

「差し出しても結局殺すけどな」

 ヒャハハハ、と下品な笑い声を上げる盗賊たちには目もくれず、ユリアが私に囁いた。

「なあノックス、一つ思いついたんだけど」

「奇遇だな、私もだ。全員倒すなよ、一人だけ残せ」

「了解!」

 ユリアは不敵に笑った。

「おい、何笑ってやが」

 それが、その憐れな盗賊の遺言となった。一番近くにいた男の懐に飛び込んだユリアの剣が弧を描き、首を跳ね飛ばしたのだ。驚きの表情を残したままの首が鮮血と共に空を飛び、残った三人が慌てて剣を握り直すが、はっきり言って遅すぎる。首を失った死体を蹴り飛ばし、やっと剣を構えかけた二人目の盗賊に上段から斜めに剣を振り下ろす。右肩から進入した刃は左の太腿から飛び出し、盗賊の体を二つに分けた。

「……てめえ!」

 残った二人のうち一人が剣を振り上げ、もう一人がユリアの後ろに回ろうとする。狙いは悪くないが、残念ながらレベルが違いすぎた。振り下ろされた剣を半身になって踏み込みつつ躱し、突き出した剣は正確に男の心臓を刺し貫く。胸から血を吹き出して倒れる男を背にユリアが振り返ると、最後に残った盗賊は震え上がり、剣を放り出して森の中に逃げようとした。

「逃がすか!」

 落ちていた石を拾い上げると、逃げる盗賊に向かって投擲する。石は見事に頭に命中し、そいつはぎゃっと叫ぶとつんのめって派手に転んだ。

「おい」

 近づいたユリアが低い声で言うと、男はガタガタ震えながら「命だけは、命だけは……」と泣きわめく。見苦しいことこの上ない。ユリアは男の喉元に剣を突きつけ、低い声で問いただした。

「この森をミネラ側に抜ける道を教えろ」

「し、知りません」

「地図もないのか」

「地図ならあります。でも、お頭しか持ってません。許してください、俺は知らないんです。持ってないんです。お願いだから斬らないで」

 わあわあと泣き喚く男を「黙れ」と一喝し、ユリアは困ったような顔をして私のほうを向いた。

「知らないってよ」

「じゃあその地図を持ってきてもらおう」

 目の前の猫が喋ったことに気づき、男は「ひいっ」と悲鳴を上げた。

「おい、盗賊。私は猫の怪物だ。今言った通り、その頭とやらが持っている地図をここまで持ってきてもらおう。言っておくが、逃げたり、仲間にこのことを知らせたりすれば、私にはすぐにわかる。もしもそんなことをやってみろ、私は馬のように大きくなって、お前を…」私は口をがばっと開け、男を睨み据えた。「…一口で食ってやるぞ!」

「は、はいいい!」

「わかったならさっさと行け!」

 私が怒鳴ると、男はびくっとして立ち上がってから腰を抜かして座り込み、再び立ち上がり、ようやく走り出した。よたよたと森のほうへ駆けてゆく男を見ながら、ユリアが堪えきれずに笑い出す。

「ノックス、お前役者か何かになれるんじゃないか」

「ふふふ、名演技だったろう」

 私は胸を張った。あれぐらい脅しておけば、あの男も余計なことはするまい。そこらへんの盗賊が数人束になってもユリアには敵わないだろうが、何十人となると話は別だ。戦わずに済むなら、それに越したことはない。

「……一口で食ってやるぞ!」

「やめろ、なんだか恥ずかしくなってきた」

 あとは、地図が来るのを待つだけだ。

 地面に転がった死体を見ながら待つのはなんだか気分がよくないので、私たちは少し離れた場所に移動して待つことにした。地面に腰を降ろし、森のほうをぼんやり眺める。

「ほら、なんとかなっただろ」ユリアが満面の笑みで言う。

 私は苦笑いした。

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