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一人と一匹、夜を征く  作者: 水尾
第一章 ハルモニア王国南部
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二 黒い猫

「王国の鍵」からタイトルを変更しました。

同名の作品があることを知ったからです……先に調べておくべきでしたね。

 私はユリアに追いつき、横に並んで歩いた。

「お前、本当に来るのかよ」

 問いかけてくるその声はあくまでも真剣だったため、私も茶化さずに答える。

「無論だ。お前は強いが、一人より二人のほうがいいに決まっているだろう? 私の知識と爪は、必ずやお前の助けとなるだろう」

「……そうか、わかった。よろしく頼むぞ」

「うむ」

 私は誓いの印に尻尾を高く掲げた。

 知っての通り、私は猫だ。スラリとした体躯の黒猫で、自慢ではないがつやつやとした美しい毛並みを持っている。道を歩けばそこらへんの野良猫十匹のうち九匹は振り向くであろう。残り一匹は猫のふりをした穴熊か何かに違いあるまい。

 (ノックス)という名前を付けてくれたのは、ユリアである。

 十年前、熊に襲われて森で死にかけているところをユリアに拾われた。その後ずっと一緒に暮らしている。つまり私は十年以上生きていることになるのだ。猫の中では高齢にあたるはずだが、私は今のところ体の衰えを感じたことはない。それがなぜなのか、そしてなぜ猫である私が人語を解し、また喋ることもできるのかは私にもわからない。私の記憶はユリアに出会う以前がすっぽりと抜け落ちているのだ。おそらく熊に襲われたときのショックだろう……しかし、記憶が戻らなくとも何の支障もない。

 私にはユリアがいる。それで十分だ。


 ユリアは他の男たちより手のひら二つ分ほど背が低く、おまけに黒髪黒瞳という珍しい外見をしている。この国では金髪碧眼が普通であるため、非常に目立つ。

 本当の両親はわからず、聞くところによると森の外れに倒れていたところをこの村の人に拾われたらしい。四歳だったユリアは、村の外れに住む子供のいない老夫婦に引き取られた。その四年後、今度は私が拾われたというわけだ。

 以前、ユリアに聞いてみたことがある。

「拾われる前のこと、何か覚えていないのか?」

「覚えてない」

 ユリアは断言した。

「思い出したいとも思わないしな……俺は今、十分幸せだ」

 この無骨で単純な少年は、そう言ってにっこり笑ったのだった。


 懐かしい場面を思い出し、私はそっと微笑んだ。


 あれからあっという間に三日が経ち、出発の日の朝。

 窓から差し込んだ朝日で、私は目を覚ました。ここはユリアの家である。小ぢんまりして、でも頑丈なこの家は、老夫婦が病に倒れた後に村の人々がユリアのために建ててくれたものだ。私はベッドの上に飛び乗って、「起きろ!」とユリアを蹴飛ばした。

 ユリアはがばっと起き上がると、慌てて家の中を走り回って、大きめの袋に旅に必要な干し肉や服などを詰め込んでいく。旅に必要なものは、まず食糧、そして衣服。他のものは、即席やあり合わせで案外どうにかなるものなのである。

 私が毛づくろいなどをしながらユリアが走り回るのをのんびり眺めていたら、台所のほうから怒声が飛んできた。

「お前も手伝え!!」

 仕方なく私も一緒になってパタパタと走り回ってやったら、今度は「毛が散るから座ってろ」などと言い出すので、私は厳重に抗議した。

「前言を撤回するのが早すぎないか? 朝令暮改って知ってるか、ユリア」

「知るか! 黙ってろ!」

 ユリアが吠えた。


 荷造りが終わった。がらんとした室内をもう一度見渡し、忘れ物がないか確認してから、外に出て鍵を閉める。

「この家ともしばらくお別れか」

 ユリアが珍しくしんみりした口調で呟いたので、私は思わず吹き出してしまった。ユリアがジロリと私を睨みつけ、「どうせ今似合わないこと言いやがってとか思っただろう」などと言うので、私は笑いをこらえるのがますます困難になってしまった。

「それがわかるようになっただけでも大きな進歩じゃないか」

「うるさい、置いてくぞ」

 ああだこうだと言い合いながら荷物を持って集会所まで行くと、集会所の前に村長が立っていた。

「朝から騒がしいことじゃのう……まあ、元気があって何よりじゃ。準備はできたかね?」

 私とユリアが頷くと、村長は「よろしい、では、ちょっと待っておれ」と言って集会所の部屋の中に消えていった。奥から何やらゴソゴソと音が聞こえる。

 やがて戻ってきた村長は、大きな袋を抱えていた。

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