全てを奪い奪われる者
全てを手に入れ、全てを奪われろ。
そんな呪いをかけられた俺は今日も一人で生きている。
道行く者がこちらを気にすることもなく歩きやがる。人の気も知らねぇで、のうのうと生きてやがる。
俺はめんどくさそうに腕を横薙ぎに払う。
するとどうだろう、目の前にあった歩く肉は真っ二つに切り裂けるじゃねぇか。
裂かれた下半身から噴水みたいに血が湧いてくる。
内臓が飛び出して、まるで華だ。
血肉に彩られる大通りに咲く、無数の華。
いいねえいいねえ、鉄の匂いが鼻につく。真っ赤に染まる視界は、これ以上奴らを見なくて済むってことだろ。
俺はどうせ一人なんだよ、なら全てを壊してしまっても構わねぇよな?
「…止めれ!そこのお前、止まらんか!」
「ッチうるせーな。俺に『命令』するんじゃねぇ!!!」
真っ赤になった視界で確認できねぇが、恐らくこの街の警備兵ってところか?
それが寄ってたかって俺を包囲してやがる。
めんどうだな、早く始末したいもんだぜ。
「手を上げて武器を全部出すんだ!大人しくしろよ殺人鬼め」
「ッチワカッタヨ。ほら、なーにもない」
俺は手を上げて無抵抗をアピールする。
武器なんてありはしないよ、俺が使うのは異能だからな。
とびっきり強い呪いだぜ、欲しいかよ。欲しいならくれてやんぜ?利子は高くつくがな
「いきなり人を殺してどういうつもりだ貴様!腕の一本や二本じゃ許されない事態だぞ。分かっているのか貴様!」
お怒りのようですぜこの警備兵どのは。
頭に血が上ってやがる。この分じゃ易々と抜けられそうじゃねぇか
「…じゃあちなみに何で償えと言うのかい?警備兵サマ?」
「ばっバカにしやがって!貴様など手足全てもげて這いつくばり許しを請えばいい!」
物騒なこと言いやがる警備兵だぜ。
だがしかし、俺に選択肢なんてものはねぇんだがな。
「…ほら、これで、いいかい?警備兵サマ」
「なっなっななななな」
へへっ驚いてる驚いてる。
そりゃあそうだろうぜ。何せ俺は言われたとおりに手足を引きちぎって、やったんだからよ。
いてぇんだぞこれ。死ぬほどいてぇ。だからあの一言を、言えよ。警備兵サマ。
「おっおい、もういいもういい。お前の誠意は分かったから、な?ここで死ぬのは止め―――」
「ありがとよ。その一言を待っていた。」
狼狽する警備兵を尻目に俺は手足がない状態で這いずり、未だに動けなかった肉を食らう。
俺の奪う力ってのは偉大でな。こうして食らえば復活すんだよな。
わりぃな、お前ら。俺は今猛烈に殺したい気分なんだよ。だから早く、生贄となれ肉共。
「何故お前生きて――へぶあっ!?」
「うっせーよ、もう口きくな肉片が。そこらで横たわってろ屑」
俺の周りには元人間であった肉片が散らばる。
いい気味だぜ、俺の手足を引きちぎる『命令』しやがったんだから、それも当然だ。
俺の体に流れる呪いは虐殺の興奮から、まだ休まらねぇようで。
もっと血を求めている、うるせぇ野郎だぜ。『命令』されんのは嫌いなんだ。
言われなくてもあっちから来てくれんよ呪いちゃん?
その日王都のとある一角で数千人もの人間が唯の肉片と化した。
犯人は未だ特定されず、真実は闇の中。
だが口々に関係者が告げるのは、『全てを奪いし者』の名前だった。