伝説のスナイパー
伝説のスナイパー、ジェシカは困っていた。
依頼を受けたは良いものの、その狙撃対象は到底倒せる相手では無かったからだ。
「うーん、やっぱり無理よねぇ~」
その小さな体躯でうつ伏せになり彼女が見つめている先には、標的の時計台が見えていた。今彼女がいるのは教会の屋根の上、十字架のすぐ傍だ。その手には厚い鉄板すらも貫通する自慢の狙撃銃が握られている。彼女の身体には大きすぎるその狙撃銃のスコープを覗きながら、彼女は嘆息した。
「時計台の長針を撃てだなんて、一体どういうつもりかしら?」
そう文句を言いながらも、彼女は長針に狙いを定める。その直後、深夜の教会付近に大きな音が響き渡り、狙撃銃からは薬莢が排出された。銃声は続けざまに起こり、数発後に止まった。
「……やっぱりこの距離じゃ当たらないわよね。今日は撤収しよう」
彼女はそう言って立ち上がり、狙撃銃の銃身を真上に向けた。
狙撃対象が遠いなら近づけば良いような気がするが、彼女は全くそんなことには気付かなかった。
彼女は阿呆だったのである。
*
先程の時計台、その文字盤の裏の整備室にある男が居た。その男はカツカツと靴音を立てながら、男の数歩先に横たわっているものへと歩み寄った。
「前評判どおりの仕事だな」
男は横たわっている死体の顔を確認しながら呟いた。死体の眉間には真新しい着弾跡がある。
「やはり彼女に頼んで良かった」
男は後ろから来た屈強そうな男二人に死体を指差して見せると、振り返ってその場を去った。
――(ある意味)伝説のスナイパー、ジェシカ。狙わぬ獲物を必ず仕留める女。