クラスメイトは勇者様!
「あなたは伝説の剣です!一緒に旅に出ましょう!」
クラスメイトから突然そのように言われた。何言ってんだ、こいつ?何か悪い物でも食べたのか?
「断る」
俺はそう答えた。そんな戯言に付き合う義理も無い付き合いたくもない。
「えぇー!?お願いしますよ!魔王を倒しに行きましょうよ?」
面倒な奴だ。っていうかこのクラスにそんな頭がおかしい奴なんていたっけかな? 俺は疑問に思ってゆっくりと目線を文庫本から離した。そして捉えた姿は、なんと学年一の美少女と名高い俺の友人のお気に入り、クラス委員長さんだった。え? マジか? まさか学年一の美少女がこんな頭の残念な奴だったとは。学校中の男子が脱力しそうな衝撃の事実だな。まぁ、幸いなことに教室には今のところ俺と彼女の二人しかいないし、今のうちに彼女を正気に戻してやろう。こんな頭の残念な奴のせいで友人が脱力する姿を見るのも忍びないしな。決して彼女の好感度を稼ごうとしている訳ではない。もしこれが男子なら殴って眼を覚ましてやるところだが、残念ながら相手は美少女なので言葉で正気を呼び起こしてやることとしよう。俺は席から立ち上がった。彼女の両肩に手を置き、語りかける。
「いいか、委員長?この世は君が思っている以上に普通なんだ。通学途中にモンスターが出てきて倒すと経験値が手に入ったりすることも無ければ、突如魔王に任命されることもない。だからさ、勇者やら魔王なんて忘れて学校生活を楽しみなよ?君の人生は明るいぞ!」
ふぅ、我ながら良いこと言ったな。俺の名言ベスト3には入る良い言葉だった。見ると委員長も俺の言葉に感動したらしく、顔を下に向けて肩を震わせている。と思ったが、彼女の口から漏れ出た音は俺の予想に反するものだった。
「……ぷっ、くく!そんなことあるわけないじゃん、馬鹿みたい・・・!」
どうやら彼女は笑っているようだ。空気が小さな隙間を通る時特有の音を立てているということは、笑いを堪え切れていないと見える。失礼な奴だ。確かに俺自身も幾らかは滑稽だと思っていたが、少なくともお前に笑われる程不可思議なことは言っていない。少し腹が立った俺は彼女に問いかけた。
「じゃあお前の言っていることは本当だっていうのかよ?証拠を見せてみろよ」
彼女は動作を止めた。どうやら言葉に詰まっているようだ。それ見ろ、実証なんて出来ないじゃないか。もうやめた。こんな奴はどうせ社会復帰など出来はしない。こういった奴は放っておくしか処置はないのだ。
「分かったらもう俺に話しかけるのはやめてくれ。朝の俺はそんな妄言に付き合うほど機嫌が良くないんだ」
そう考え直した俺は彼女を突き放すことにした。もはや打開策が見えない以上、話に付き合うのはマイナスにしかならない。俺は彼女の両肩から手を離し、席に座って再び視線を文庫本に向けた。その刹那、「危ない!」と声がしたかと思うと、俺の頭上辺りで金属同士がぶつかるような音がした。おもむろに顔を上げてみると、委員長がよく時代劇かなんかでみる水平切りの後のような姿勢でしゃがんでいた。……へ?どういうことだ?
「なにしてんだ?」
「今天井から魔槍が落ちてきたから払ったんだよ。どうやら君を先に亡き者にしようとしているみたいだね……」
またも頭のおかしいことを言い放っていた。だからそんなことあるわけないだろ。
「証拠は?」
俺がそう問うと、彼女は自身有りげな表情で腰に手を当てた。
「そんなの槍を見れば一発……あああぁぁぁ~!」
彼女が奇声を発するのを合図に指差された方向を見やると、いつもとなんら変わりない教室の入り口があった。
「槍が何だって?」
「いや、本当何だってば!くそぅ、魔族のクセに小癪な手を使って悔しくないのかね!」
本当に魔族の仕業だったとしたら、小癪な手を使って正解だと思うがね。敵役とは本来そういうものだ。まぁいないと思うけどね。
「分かったら席に戻ってくれよ。ほら、誰か来たぞ」
彼女はどこか腑に落ちない様子で、自らの席へと戻っていった。全く、どんな歪みがあったらあんな妄想に捕らわれるんだろうか。一度カウンセリングを受けたほうがよろしいと思われる。今度週一で学校にくるカウンセリングの先生に伝えておこう。そんな思案を巡らせて文庫本に視線を落とすと、文庫本に毛髪が落ちていることに気付いた。俺のものらしい。だが良く見ると抜け落ちたものではないらしく、不自然な形で存在している。まるで途中から鋭利なもので斬られたような……まさかね。非日常がそんな簡単に転がっている訳がない。俺は毛髪をそこ等辺に捨てて文庫本を開いた。