表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

1 いつもの朝


 じりりりり。


 目覚まし時計が鳴って、目が覚めた。

 少しだけ乱暴にそれを叩くと音が鳴りやむ。

 唸りながら目覚まし時計の時間を確認すると、七時を少し回ったところだった。

 もそもそと芋虫のように動いて被っていた布団から出る。


「…………朝か」


 憂鬱に呟いて、林田沙希は頭を掻いた。

 ベッドを出て立て鏡の前に立つと、パジャマ姿で髪がぼさぼさの自分を発見する。

 それを手櫛でなでつけて、沙希は大きなあくびをした。

 一通り寝癖を整え自室を後にする。

 部屋を出た直後からしている匂いは生活感のある朝食の匂いだ。

 いつも通り二階から一階に降りて台所に向かえば。


「おはよう。お母さん」


 普段通りに彼女はそこで朝食の用意をしていた。


「あ。おはよう。沙希ちゃん。ちゃんと顔を洗っていらっしゃいね」


 大学三年の娘がいるにしては若く見えるこの母親は、その身をスーツに包んでその上にエプロンをしている。

 もう十何年も見慣れた光景だ。


「はーい」


 生返事を返して沙希は洗面所へ向かう。

 顔を洗って食卓のある居間へ戻る頃にはもう、母は椅子に座っていた。

 沙希がその向かいに座ると、ほぼ同時に「いただきます」の声。

 母と娘。二人だけの食事。

 テレビはあるけれど、ついていない。

 朝食はいつもこうだ。


「沙希ちゃん。今日の予定は?」

「ん。別にないよ。バイトは明日だし、友達とは遊ぶかもしれないけど。お母さんは?」

「とりあえず、残業する予定はないわね。病院に寄らないといけないけど」

「え、病院?」


 沙希は食事の箸を止めて、母を凝視した。


「なに、どっか悪いの?」


 母一人、娘一人の生活である。沙希は少し不安になった。


「あ、ううん。そうじゃないのよ」


 それを見て取った母親の顔が慌てて横に振られる。


「沙希ちゃんが心配するようなことじゃないの。検査するだけだから」

「……検査? 会社の身体検査でもあるわけ?」

「そうね。そんなものよ」


 母親は曖昧に笑った。


「だから、今日は沙希ちゃんに先に帰っててもらいたいなあって思って」

「何」


 なんだか妙だ。と沙希は感じる。


「本当に大丈夫なわけ?」

「ええ。大丈夫よ。多分ね」


 どこか落ち着かない返事がどうにも気にかかったが、沙希はそれ以上突っ込まなかった。

 自分に家にいて欲しいというのなら、ちゃんとあとからでも報告してくれるはずだから。


「……わかった。今日は講義が終わったら即帰ってくるから」

「ありがとう。沙希ちゃん。あ、夕飯の準備。おねがいね」


 思い出したように付け加えられて、沙希は思わず苦笑した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ