計画
俺の顔を見てから、長浜氏はゆっくりとページをめくった。
彼は眼を見開いた。
ノート一冊分にびっしりと書き込まれたそれは、俺の計画書だった。
「これは……」
「あの日から書き続けていました。まだ未完成ですが」
眉をひそめてそのノートを食い入るように見つめていた長浜氏は、
自分の頬を掴みながら呻いて言った。
「……わたしはかまわない。
しかし君は……それでいいのか」
「はい」
「君にはまだまだ先の人生が残っている。
こんなことに……こんなことで……人間を捨てることはない」
「僕はこれから先の人生を、あのゆっくり共に捧げるつもりです」
「私がやる。これは私がやろう。しかし君は」
「これから先、同じ犠牲者を生まないためです。
そしてこれは、ゆっくり達のためでもあります」
「こんなことが?」
俺は頷いた。
狂人と思われようとかまわなかった。
「ゆっくりは苦しむために生まれてきたんですから」
「……それは」
「あの生物がどういう生き物なのか、ようやくわかったんです。
あいつらは弱い。痛みに弱く、耐久性もなく、ひどく簡単に苦しみ、壊れる。
そのくせ悪意や闘争心が強く、強い外敵に向かって無謀な喧嘩を売り、執拗に挑発する。
どこにも根付くことができないくせに、どこにでも入り込む。
そんなゆっくり共が生物として安定している状態は何か、ずっと考えていました。
そしてそれは、苦しんでいる状態でした」
「それは、君……いくらなんでも」
「そう考えれば、すべてにつじつまがあいました。
やつらの行動はすべて、苦しむというただそのことに向けられている。
生まれては死に続け、憎まれ虐げられつづけるゆっくり共は、
そのことですでに生物としての目的を達しているんですよ」
「………」
「僕は残りの一生を、やつらのために捧げます。
今こそ僕は、苦しむために生まれてきたやつらの奴隷になりましょう。
人間のために、ゆっくりのために、お互いの種の安定を目指そうと思います」
「圭一君」
力なくうなだれ、長浜氏は言った。
「君は変わったな」
「変わりました」
俺は答えた。
計画は実行されることになった。
計画には長浜氏が全面的に尽力してくれることになり、
さらに二か月間が準備期間にあてられた。
都心からそう遠くない、しかし奥まった山奥の廃墟が選ばれ、
目的のために改築された。
その間、ゲスどもはあの個室で贅を尽くしていた。
長浜氏や俺の指示に従い、使用人たちは毎日やつらの面倒を見ていた。
実行の日。
今、俺は改築された建物の中で、
大きなテーブルの前に立っている。
テーブルの上には、睡眠薬を食事にまぜられた十三匹のゆっくりが眠っている。
「ゆぴぃ……ゆぴぃ……ゆぴぃ……ゆぴぃ……」
あの日、俺の部屋に侵入してきたまりさとれいむ。
まりさが外から連れ込んできたありす。
それぞれが50cmのバランスボール大だった。
そしてその子供、子れいむが三匹、子まりさが三匹、子ありすが四匹。
十匹とも30cm大のバスケットボール大。
テーブルを囲むのは、計画の実行に関わる人々。
長浜邸の使用人やゆっくりの研究者たち。
計画のリーダーは俺だ。
俺の計画を、これからこの手で実地に行うことになる。
こいつらのために、持てるすべてを捧げよう。
涎を垂らしながら泥のように眠りこむゆっくり共に向かって、
俺は静かに声をかけてやった。
「ゆっくりしていってね」