ゲスの事情聴取
長浜氏と俺の意向を受け、
その事件は日本中に大々的に報道された。
その主犯であるあのゲス共は事情聴取を受け、
警察やテレビの取材班に喜々として自分の所業を語り、
その様子は日本中に放映された。
「まずまりささまがあしにまりさしゃいにんぐあたっくをくらわしたんだぜ!!」
「そしたらおねえさんがぶざまにたおれたんだぜ!!おとうさんはつよいんだぜ!!」
「たおれたところにれいむがおなかのうえでぴょんぴょんしたんだよ!!
ごみくずのあかちゃんはすぐにでてきたよ!!にんげんさんはもろいね!ぷげら!!」
「あかちゃんのおはだはとってもすべすべもちもちしていてとかいはだったわ。
またもってくるならすっきりしてあげてもいいのよ?」
「おなかすいたあああ!!れいむおうちかえるうううう!!」
それは飼いゆっくりによって人間が殺された日本史上初の事件だった。
日本中がその事実に震撼し、愛護派の多くが認識を改め、虐待派がさらなる気炎をあげた。
その日から、日本中で捨てゆっくりの数が増大し、
同時にむごたらしく殺されたゆっくりの死骸が町に散乱し、市民はその処理に追われた。
だが、殺されるゆっくりに同情する者はいなかった。
日本の法律では、ゆっくりを罰する法は制定されていない。
人を殺し、全身不随に追いやったそのゆっくり共を憎み、処刑を望む声は高かったが、
俺はそのゲス共を手元にとどめた。
長浜氏は憔悴しきってうなだれていた。
俺はあの居間でテーブルをはさんで向かい合い、黙っていた。
居間にゆっくりの姿はない。
長浜氏の邸宅から、ゆっくりの姿は一掃されていた。
すべて加工所に送られていた。
もはやゆっくりの姿を見るのも嫌なのだろう。
先日は、道端で出会った野良ゆっくりにあまあまを要求され、
長浜氏らしからぬ激昂を見せて踵で一息に踏みつぶしていた。
いまではゆっくり愛護会の会長も退いている。
重苦しい沈黙が流れたが、
やがて長浜氏が言った。
「すべて私のせいだ」
孫と同じ事を言う老人が悲しかった。
「ただ一度だけ、一度だけ叱りつけてやればよかった。
強くたしなめれば、あの素直な孫は言うことを聞いてくれ、あんなことはやめたろう。
私がそれをせず甘やかしたために、たった一人の孫娘とひ孫を、君の妻と娘を死なせてしまった」
「お祖父さん」
「私を恨んでくれ」
震える老人はひどく小さく見えた。
「それは僕の言う事です……あなたの孫娘を守れなかったこと、深くお詫びします。
このことは、一生をかけて償うつもりです」
「圭一君」
俺は長浜氏に向かって、毅然として言い放った。
「僕は誰も恨んでいません。
僕の恨みは、あのゲスゆっくり共に全て向けられています」
「君の注文どおり、やつらは元の個室でのうのうと贅沢三昧の日々を送っておるよ」
「そのようですね。ありがとうございます」
「どうするつもりかね?」
「どう、とは」
「やつらをどうするのかね」
「質問で返すことをお許しください。
お祖父さんはどのようにしたいとお思いですか?」
「殺してやりたい!」
テーブルに拳を叩きつけて長浜氏は叫んだ。
「この手で引き裂いてやりたい、踏みつぶしてやりたい!!
やつらは、やつらは……私は今まで………今ごろになって………」
すべては遅すぎた。
長浜氏は自分を責めていた。
あの日から眠れた日がどれだけあったろうか。
「僕に任せてくださいませんか」
「……どうするのかね」
「一息に殺したところで、この恨みは晴れるものではないでしょう」
俺はノートを取り出し、長浜氏の前に置いて言った。
「僕は人をやめます。どうぞ軽蔑してください」




