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とりあえず俺はアパートに帰った。
通帳の貯金額を確認する。
…100万円。俺が二年間コンビニ正社員で稼いだ金だ。実家に仕送りもしているので、100万円も貯金できているという事は俺が贅沢をしなかったおかげでもあるだろう。
しかし、なぜ300万円も用意しろなどとあの女社長は言ったのだろう。
そこまで俺を雇いたくないのか、それとも依頼として楽しんでいるのか…
…だめだ考えれば考えるほど頭が痛くなる。
両親に電話で相談してみることにした。
プルルルルル…プルルルルル…
「もしもし、只野ですが」
「母さん、俺、幸一」
「あら、幸一?いつも仕送りありがとね、仕事うまくいってるの?」
「そのことなんだけど…ちょっと俺とは合わなくてさ、やめちゃったんだ」
「…また視線?」
「…うん、さっきアパートに帰るまでずっと見られている気がした」
「警察に相談した方がいいんじゃ…」
「たぶんつかれてるだけど思うんだ。それにこんなビンボーな男をストーカーするやつなんかいないって。ちゃんと周りも確認したし、警察が相手にしてくれるわけないよ」
「幸一がいいっていうなら信じるけど…体調管理はちゃんとしなさいよ」
「うん…心配かけてごめん」
「それで、ほかにも何か大事なことがあるんでしょ」
さすが母だ、鋭い。
「…実は新しい仕事でお金が必要になったんだ」
「お金?いくらかしら」
「…200万」
「っ!?幸一、あなた騙されているんじゃ…」
「騙されてない!…たぶん…だけど。とにかく明日のある時間までに必要なんだよ。必ず返すから何とかならないかな?」
少し興奮しながら藁にもすがる思いで電話を続ける。そもそもなんでそこまでしてあの『何でも屋』で働きたいのか自分でもよくわからないでいた。
「……」
返事がない。そりゃそうだ、だれだって突然200万貸せって言われたら言葉も失う。
「幸一、あなたには大学を諦めさせちゃったわね」
「…頭も悪かったし、行ける大学なんてなかったよ」
「あなたからの仕送りと私たちの貯金で200万くらいならあるわ。幸一の口座にこれから振り込んできます」
「か、母さん!?父さんに相談しなくても大丈夫なの?」
「お父さんにはお母さんから伝えておきます。あの人ならわかってくれます」
俺は泣いていた。
300万円が、揃った。