I saw him die
夏蛍が舞う夜だった。
髪は絹糸、目は硝子。女神様のように美しい人形を知ってるかい?
「そんな歌を聞いたことがあるか、ですか」
「そうだよ、美しい娘さん」
「ありませんが」
「この森じゃ有名な噂さ。なんでも機械人形っていう、魔石が使われた人形らしい」
「そうなんですか」
森の奥に住む一人の男を訪れ、話を聞いている少女がいた。
歳は15、6くらいだろうか、大人びた雰囲気を持っている。「この周辺にその機械人形がいるんですね」
少女の深緑の瞳が光る。
「ああ、そうらしい。俺の仲間にもそれらしいやつを見たのがいる」
「そうですか。…わかりました。それでは」
「ところでお嬢さんは?」
「私ですか? 私はただの学者です」
やわらかな黒髪をそよがせて、少女は去っていった。
少女はゆっくり歩を進める。そのときだ。
「待て」
「どなたですか?」
「私は異界の者だ」
「異界…?悪魔でしょうか」
「ああ」
「ご用件は?」
少女の前に立ちふさがった男はにやりと笑った。
「機械人形42番、お前を殺しにきた」
「…」
「お前は魔石をその身に秘めすぎている」
そういい放ち、男は姿を醜悪な悪魔に変化させた。
少女は冷静な目で男を見つめる。花びらが風に落ちるように、或いは雪が水に落ちるように、少女の姿が変化する。
黒髪は春の土のようなやわらかな茶色に。深緑の瞳は澄んだ青緑の瞳に。さらに顔の造作までもより整っていく。
「噂に聞いたとおりの美しさだな」
悪魔はそう呟くと何かを詠唱した。途端に少女の周辺から水流がほとばしる。
しかし少女は動揺した様子もなく。
「水を蒸発。霧へ変化」
声と共に物質は姿を変える。やがて彼女の姿は白き霧に隠された。
「それも魔石の魔力か」
「炎上」
悪魔は水で炎を弾こうとする。しかし水は炎に触れた途端に消えていく。
「っ………!」
舌打ち。呪いの言葉を叫ぼうとした悪魔の全身を炎が覆う。
「お前はいずれお前自身の力で滅びる…。42番、死の番号を背負いながらな!」
そう言い切ると、悪魔の身体は一瞬で灰と化した。その灰の中で唯一輝くそれは、魔石だった。
夜空と星を固めたような石を拾い、少女は飲み込んだ。
そして彼女は立ち上がり、また静かに歩きはじめた。