I killed Cock Robin
春霞によって美しい月はぼんやりと光を放つ。
そんな夜はまるで、小さき王女の――
「今日から私があなたの母です。よろしく、アリス」
「はい、お母様」小さな王女の名はアリス。彼女の母は流行り病で亡くなった。王、つまり彼女の父は新しい妃を迎えた。
アリスが十の誕生日をある日。
「アリス、こちらに来なさい」
「なあに?お母様」
継母は悲しそうな目をしていた。
「あなたに話があります」
「なにかしら?」
「あなたが今年の――川の贄に選ばれました……」その国には大きな川があり、たびたび氾濫が起きた。
そこで人々は川に贄を捧げることにしたのだ。
「……」
「アリス、ごめんなさい」
継母の声は沈んでいた。
「だ、大丈夫よお母様。私はこの国の王女ですもの、平気だわ」
「そう……」
継母は少しだけ微笑んだ。
次の日。アリスの身体は木製の十字架にくくられている。
「お母様、お父様、ありがとう」
「アリス……」
「そろそろ時間です」
声に促かれ、王と妃はアリスから離れる。
木の十字架は錘を付けた状態で川に流された。
ゆっくりゆっくり、アリスは沈んでいく。
視界の隅には女王の姿。その隣には一人の男。
「よくやってくれたわね」
「いえ、これくらいたやすいこと」
「ふふ、私はただ女王の座が欲しかっただけ。あんな王女は邪魔でしかないのよ」
「それで女王、報酬は」
「どうぞ、金貨一袋よね」
「ありがとうございます」
「あんな王女が死んでくれてせいせいしたわ!」
水に沈む直前、アリスの目にうつったのは女王の笑顔。耳に聞こえたのは女王の笑い声。
…………許せない
今までの言葉は全て、偽りだったのだ。
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!!
アリスの身体を支配するのは真っ赤な憎しみ。
動けない身体がもどかしい。ここで死ぬしかないのか。
「力を貸してあげるわ」
最後に聞こえたのは幻聴か――……
「ん………」
目をあける。アリスは川沿いの草むらに横たわっていた。
「あれ?なぜ私…」
「王女さま、おはよう」
振り向くと、一人の少女がいた。
「あなたは?」
「私? 私はアメジスト」
「なんで…」
「憎いんでしょう?」
「…ええ」
「力を貸してあげるわ」
「でも、どうやって」
アメジストは笑った。「私は魔力の石、魔石よ」
「魔石…」
願いを叶え、魂に宿る石。
言い伝えで聞いたことがある。
「どう?」
「…いいわ、アメジスト」
「決まりね」
言葉と同時に、アメジストの姿は消えて、代わりに紫の光がアリスの身体に吸い込まれていく。
「さ、復讐の舞台を始めましょう」
そうして王女は紫の花を手に入れた。