-1-
恋花は、恋愛が成就する直前まで想いを育てたのちに、失恋させることで実となり種となる。
そののち、失恋綿帽子となって種を空へと飛び立たせ、子孫繁栄する、そういう花だった。
恋する男性の精神に寄生し、妖精として理想的な女性の姿で現れ、その男性の恋を応援するのが第一の目的。
最初のうちは、親身になってしっかりと恋の応援をする。
そうやって色づかせ虹色に輝かせないと、恋花は実をつけて種になることができないからだ。
同時に、ずっとそばにいることで自分のほうへと意識を向けさせ、理想的な姿や理想的な性格で誘惑。
花が虹色になった暁には、好きな相手とケンカさせて、失恋させる。
これが最終的な目的となっていた。
なお、恋花の妖精は女性だけに限られる。
男性の失恋による悲しい感情を糧としてのみ、実をつけることができるらしい。
紫輝を宿主としていたポインセチアは、そんな恋花の妖精ではあるけど、恋の応援をして、時には誘惑して、そうやって交流を続けていくうちに、本当に紫輝のことを好きになってしまったようだ。
僕に協力してくれたのも、そういった想いがあったからだ。
紫輝が僕に協力してくれると申し出てくれたため、一緒に協力してくれたのだろう。
そのポインセチアから好意を受ける紫輝は今、笹百合さんとよりを戻している。
一旦は笹百合さんのほうも完全に諦め、失恋綿帽子が飛んでいってしまった状態ではあったけど、紫輝がもう一度やり直してほしいと頭を下げて懇願した。
諦めていた笹百合さんも、やっぱり諦めきれない想いがあって、すんなりモトサヤに納まったというわけだ。
笹百合さんが紫輝の部屋で見た女の子、それはポインセチアだったわけだけど、彼女は親戚の子だと言って解決させた。
最初は、「親戚でも結婚はできるし」と笹百合さんは納得していなかったものの、「俺は笹百合さんが……いや、萌香が大好きだよ」と、このとき初めて下の名前で呼び、丸く収まった。
ふたりがよりを戻したとはいえ、恋花はすでに実となり種となり、失恋綿帽子は空に飛び立ってしまった。
ポインセチアは役目を終えたことになるため、そのままでは消えてしまう運命にあった。
恋花の妖精は通常、失恋綿帽子を飛ばしたのを見届けたあと、妖精の国へと戻る。そこで新たな恋花の担当になるまでひたすら待つらしいのだけど。
ポインセチアは今、部屋に名前と同じポインセチアの鉢植えを置いて、そこに乗り移る形で存在し続けている。
新たな恋花を咲かせたわけではないから、紫輝と笹百合さんを失恋させる必要もない。
だけど、ポインセチアのほうとしても紫輝を好きになった想いは残っているようで、複雑な気持ちを抱えながらも、紫輝と笹百合さんの恋を応援しているという。
そのうちなにか、三角関係的な愛憎劇が起こらないとも限らないと、僕はハラハラしているのだけど。
どうやら今のところはさしたる問題もなく、いい関係が続いているようだ。
そしてラナンさんもまた、僕の部屋に残ったままだ。
僕の勉強机に咲いた恋花は、まだ完全に枯れてはいなかった。そのため、僕と鶯がお互いの気持ちを伝え合ったことで、再び色づき、完全に復活した。
成長しないままだと恋花は枯れてしまう。ラナンさんは以前、そう言っていた。
でもそれは僕を奮い立たせるための嘘だった。
恋花が一旦枯れかけたのは、実はラナンさん自身の問題だったらしい。
あまりに驚きすぎて、僕の理想の女性像からかけ離れてしまったせいで、恋花とのつながりが弱まり、枯れそうになったのだとか。
……あのときは確かに、怒鳴りまくって鬼のような形相までしてたからなぁ、ラナンさん。
ともかく、僕と鶯との恋は終わらないから、いや、終わらせないから、恋花が実になって種になり、失恋綿帽子を飛ばすことは絶対にできないことになる。
それでも、ずっと鮮やかな花として咲いていられれば、ラナンさんも存在し続けられるのだという。
人間で言うなら、ずっと独身で生き続けるようなものかもしれないけど、本人がべつにそれでも構わないと言っているのだから、まぁ、これでいいのだろう。
ただ、頻繁にお互いの部屋を行き来するようになった僕と鶯の様子を見ていたラナンさんは、鶯が帰ったあと、こんなことを言っていた。
「染衣さんと鶯さんをからかいまくって楽しむというのも、新たな生きがいとしてはアリかと思っていますわ」
「え~っと、お手柔らかに……」
本来の目的を達成できない状況だとわかっている手前、僕は強く反発できなかった。
ちなみに、ラナンさんやポインセチアの存在は、鶯や笹百合さんには話していない。
いくら妖精とはいえ、さすがに部屋で女性とふたりで生活しているだなんて、言えるはずもないし。
そんなわけで、ひとりきりのとき以外は、今までどおり姿を消してもらっているのだけど。
ラナンさんはどうやらイタズラ心に目覚めてしまったようで、僕と鶯が部屋で抱き合っているときなんかにふわっと花の香りを漂わせ、鶯が勘ぐって怒り始めるのを見て、くすくすと僕にしか聞こえない笑い声をこぼしたりしていた。
紫輝のほうも、「結構苦労してるよ」と、よく言っている。
僕たちには、これからも緊張の解けない日々がずっと続いていくのかもしれない。