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KOIBANA  作者: 沙φ亜竜
10.恋の花を抱きしめて
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-1-

 僕は家に帰り着くなり、自分の部屋へと駆け込んだ。

 普段ならカバンを置いてすぐにリビングへと下りるところだけど、僕は部屋の中に視線を巡らせる。


「ラナンさん……!」


 僕の声を聞いて、ラナンさんが姿を現してくれる。


「お帰りなさい、染衣さん」

「ラナンさん!」


 僕はラナンさんにすがりつく。そして涙を流し、嗚咽を漏らした。


「染衣さん、どうなさったんですの? 随分と遅かったようですが……」


 そう言いながらも、ラナンさんは僕を優しく包み込んでくれる。


「今日は紫輝の家に行ってきた……。紫輝、失恋していて、すごく落ち込んでたんだ。だから慰めてから帰ってきた……」

「……そうなんですのね。ご自分のことを考えてくださいと、あれほど言いましたのに。……まったく、お友達思いなんですから」


 呆れた様子ながらも、ラナンさんの口調は穏やかだった。


「それでは、また告白はできなかったんですね……?」

「いや、紫輝のこともあるし、怖かったけど、勇気を振り絞って帰りに鶯の家に寄ってきた……」

「あら、そうだったんですの……?」

「うん……それで……」

「それで?」

「…………ダメだった……」

「そう……ですか……」

「ラナンさん……僕にはラナンさんだけだよ……!」


 泣き叫ぶように声を張り上げ、僕は涙の流れる顔をラナンさんの大きな胸にうずめる。

 ラナンさんは嫌がる様子もなく、僕の頭をそっと撫でてくれた。


「失恋……してしまったんですのね。よしよし……」

「うううう…………」


 温かくて花の香りのする胸の谷間に顔を押しつけながら、僕は泣きじゃくる。

 この位置からでは、ラナンさんの顔は見えない。

 だけど、なんとなく微笑んでいるように思えてならなかった。

 そしてそれは、正しかったわけだけど。


「あ、ごめん……。ラナンさん、僕、トイレに……」

「はい、行ってらっしゃい……。気を落とさないでくださいね。わたくしだけは、どんなことがあっても染衣さんの味方ですわ」


 静かに胸から顔を離した僕を、ラナンさんは女神のような笑顔で送り出してくれた。


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