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KOIBANA  作者: 沙φ亜竜
6.恋の行方の曲がり角
22/44

-1-

 ダブルデートからしばらく経つあいだに、紫輝と笹百合さんの関係は、目に見えて進展していった。


 六月に入ると衣替えがあり、制服が夏服になった。

 すると、冬服の上からでもそのボリュームを存分に感じることができた笹百合さんの胸は、予想どおりとても目を惹く状態となった。

 紫輝たちの仲が進展したのはべつにそれとは関係ないだろうけど。


 笹百合さんと一緒にいると、通りかかる男子生徒の視線が彼女の胸に向けられるのがよくわかった。

 本人もそれには気づいているようで、恥ずかしそうに胸の前に腕を当てるような体勢でいることが多くなっていた。

 ただ、なるべく視線が行かないよう、さりげなく紫輝がブロックしているということにも、僕は気づいていた。

 好きな子の胸が他の男子の好奇の目にさらされるのは、やっぱり嫌なのだろう。


 放課後に四人で話しているのはこれまでと変わらずだけど、僕と鶯がふたりだけで話している時間も多くなった。

 そのとき、紫輝と笹百合さんもふたりだけで話している。

 控えめな性格の笹百合さんとヘタレな紫輝ではあるけど、お互い積極的に話せる関係にはなってきたということだ。


 それともうひとつ、進展したと思える状況がある。

 ……いや、進展しすぎと言ってもいいかもしれない。


「はい、あ~ん!」

「あ~ん!」


 パクッ!


「……美味しい?」


 もぐもぐ、ごっくん。


「うん、おいちい!」

「あは、よかった!」


 …………。


 目の前で繰り広げられる光景に、さすがの僕と鶯も、唖然呆然、開いた口が塞がらない状態だった。

 いつの間にこんなに仲よくなったのか、ということよりも、いくら友人とはいえ、人が目の前にいる状態で完璧にふたりきりの世界に入って、なにイチャついてるんだ、といった思いのほうが強いかもしれない。

 な~にが、『おいちい』だよ! 紫輝のやつ、デレデレしちゃって。


 そんなわけで、僕たち四人は、いつもの放課後会話の他に、こうして昼食も一緒に食べるようになっているのだけど。

 友人たちの仲を取り持って応援してきたわけだし、喜ぶべきことだとは思うものの、毎日毎日、目の前でこんなやり取りが展開されていては、さすがに腹も立ってくる。

 ちなみに紫輝の昼食は、笹百合さんが用意した手作り弁当。朝早くから頑張って作っているようだ。


 それに対して僕はというと、コンビニで買ったパンやおにぎりだったりする。鶯も同様だ。

 なお、鶯が僕にお弁当を作ってくれる、などという選択肢はありえない。

 鶯は料理がまったくできないのだから当然だ。鍋を爆発させたことすらあるとか。

 火にかけたのを忘れて寝てしまったかららしいけど、それってすごく危険なのでは……。


 と、それはさておき。


 笹百合さんは、お弁当を作ってくるだけでなく、こうやってバカップルのように、紫輝に「あ~ん」と食べさせてあげている。

 お返しとばかりに、紫輝も笹百合さんに、「あ~ん」と食べさせてあげたり。

 見ているこっちのほうが恥ずかしくなってくる。

 ……だったら見なければいいのだけど、どうしても目に入ってしまうのだ。


 僕たちは、教室ではなく、文芸部の部室で昼食を取っている。

 笹百合さんは真面目な雰囲気なので、一年生部員の中ではリーダー格として扱われているらしい。

 そのため、部室のカギを持たされているのだそうな。


 勝手に使ってしまってもいいのだろうか、とは思うけど。今のところ、昼休みのあいだに誰かが尋ねてきたりしたことはない。

 もし誰かが入ってきて、いきなり目の前でお弁当を食べさせ合うラブラブなふたりなどという光景が展開されていたら、果たしてどんな反応をするだろう。

 ……ちょっと実験してみたい気もする。



 ☆☆☆☆☆



「随分と仲よくなったよね、紫輝と笹百合さん。仲よくなりすぎなくらいに。そのうち人目も気にせずキスとかまでするようになっちゃうんじゃない?」


 いつもながらの放課後の会話を終えたあと、紫輝とふたりで歩く帰り道、僕は皮肉を込めた言葉をぶつけた。

 ついさっきまでの会話中もなんだかラブラブで、ふたりの周りにハートマークが飛び交っているかのような状態だったからだ。


「さすがにそれはないな。節度ある関係を維持したいし」

「いやいや、今でも充分、節度なんてないと思うけど」

「はっはっは、ひがむなひがむな!」


 僕が皮肉を言おうと文句を言おうと、まったく揺らぐ気配がない。

 恐るべし、ラブラブパワー。


「実際、すごく親密になれたのは確かだな。それもこれも、染衣や梅原さんのおかげだ」

「あはは、感謝の気持ちは現金で」

「よし、それじゃあ五円ほど」

「たったそれだけ!?」

「ははは、ま、ほんとはもっと感謝してるって。五十円くらいか」

「十倍にはなったけど、それでも少ないよ!」


 どんな会話をしていても、笑顔が自然と溢れ出す。紫輝はそんな様子だった。

 あまりにもラブラブすぎて正直ウザいという思いもあるけど、友人の恋が実ってきているのだから、ここは素直に喜ぶべきところだろう。


「でも、仲よくなれてよかったね!」

「ああ。実は昨日、キスもしたんだ」

「ええっ!?」


 突然の告白に驚く。

 ……いや、あれだけラブラブなら、当然と言えるのかもしれないけど。

 それでも、このヘタレでヘタレでヘタレな紫輝が、キスしちゃうなんて!


「……お前、すごく失礼なこと考えてないか?」

「えっ!? そそそそそんなことないよ?」

「思いっきり図星な反応だが、まぁいい」


 ちょっと釈然としない様子の紫輝。僕は構わず、質問攻めを開始する。


「それで、いつどこでキスしたの? どうだった? キスしたあとは?」

「いっぺんに訊くな!」


 文句を言う紫輝だったけど、話したくて仕方ないという思いもあったのだろう、素直に答えてくれた。


「昨日さ、笹百合さんの部活が終わってから、待ち合わせたんだ。今までも、たまにそうしてたんだけどな。で、最後に別れるとき、笹百合さんのほうからキスしてくれたんだよ」

「されたほうなんだ。やっぱりヘタレ」

「うるさい! ……で、どうだったかというと、実は頭が真っ白で、ほとんど覚えてない」

「ヘタレすぎ……」

「うるさいっての! ……それで、別れ際だったし、笹百合さん、すぐに走っていっちゃったから、そのあとなんてあるわけない。報告は以上だ」

「なるほど。紫輝のヘタレさ大爆発って感じだけど……とりあえず、おめでとう」

「ああ、ありがとな」


 照れて真っ赤になっている紫輝を、僕は心から祝福した。


「でもさ、それじゃあ、告白ってまだしてないの?」

「ああ、そうなる。これは、俺のほうから行かないとな」

「うん、頑張って!」

「俺より、お前こそ頑張らなきゃダメだろ?」

「う……」


 これは形勢逆転? そう思って身構える。

 だけど、紫輝から放たれた言葉は、攻撃的なものではなかった。


「ま、お互い頑張ろう。焦りすぎてもダメだろうし、自分らしくな」

「……うん、そうだね」


 自分らしく、か。

 確かに、そのほうがいいのかもしれないけど……。

 でも、紫輝に負けてなんかいられないな。僕も鶯との仲が進展するように、本気で頑張らないと!


 そう思って気合いを入れ直す僕だったのだけど。

 そんな気合いも抜けてしまう事態が、それからしばらくして発生することになる。


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