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「今日はデートですのね」
「うん。まぁ、小雨まじりのどんよりした曇り空だけどね」
「ふふっ、頑張ってくださいね!」
朝、僕はいつもよりも早く目覚め、そわそわしながら着替えを終え、外の様子を何度もうかがっていた。
雨が降ったり止んだり、出かけるには少々気になる天候だった。
ラナンさんも僕のうきうきした気持ちを感じ取っているのか、普段より機嫌のよさそうな声で話しかけてくれる。
もっとも、いつもにこにこ、優しい笑顔がまぶしいラナンさんだから、不機嫌な様子なんてあまり想像できないのだけど。
「頑張るっていっても、遊園地に行くだけだよ?」
「どこだって一緒です。しっかり鶯さんをエスコートしてあげなくてはなりませんよ?」
「そうだね。でも、気にしすぎるとボロが出そうだし、普段どおりの心持ちで行こうと思ってるけど」
「え~? せっかくのデートなんですから、もっと進展するような展開がほしいですわ。鶯さんだって、そうだと思いますわよ? それが乙女心というものです」
「う~ん、鶯に乙女心なんてあるのかな~」
「ありますわよ」
断言するラナンさん。
僕にはよくわからないけど、恋花の妖精とはいえラナンさんだって女性なのだから、共通する思いなんかはあるのだろう。
「女性は誰でも、そして何歳になっても、心は純情可憐な乙女なのですわ」
ラナンさんは手のひらを胸の前で組み合わせ、キラキラ輝いた瞳でうっとりしながら言う。
「助言ありがとう。さてと、そろそろ行くね。朝食を取って、髪のセットとかもしなきゃいけないし」
「そうですわね。後頭部に寝グセがついていますから、しっかり直してから行くんですよ?」
「あはは。なんだかお母さんみたいだ」
「ふふっ。ですが、お母さん扱いはちょっと悲しいですわ。乙女心的には」
笑顔ではあったけど、ラナンさんは珍しく不満を口にする。
「ごめんごめん」
僕のほうも笑顔で謝る。
「あっ、そうそう。またおまじない、して差し上げますわね」
そう言うと、ラナンさんは僕のすぐ目の前まで近寄り、右手の人差し指を伸ばしてくるくると回し始めた。
「ちちんぷいぷい雨四光!」
おまじないの言葉の終了とともに、彼女の人差し指は僕の額をツンと突く。
「……また花札!?」
「ふふっ。今日はあいにくの雨模様ですけれど、四人のもとに光が降り注ぎますように。そういった願いを込めておきました」
「そっか。うん、ありがとう。じゃあ、行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ」
僕は笑顔で見送ってくれるラナンさんを部屋に残し、急ぎ足で一階へと下りた。
朝食の席では、お母さんからの好奇を含んだ質問攻めや、自分は遊園地に行けない好野からの文句の言葉なんかを受けまくったりしたのだけど。
デートを思い描いて脳みそまで緩みきっている今の僕にとっては、そんな声すらも心地よいBGMのように感じられるのだった。