第3話
ワープアウトの閃光が宇宙を切り裂いた。
不格好な“槍”を抱えたヘルメスが、再びアイギスの眼前に姿を現す。
目の前には、前と変わらない銀色の防壁。絶望みたいな色だ。
ハルトが最終点火レバーに手を伸ばした、その瞬間。
外部通信の受信ランプが激しく明滅した。
『ハルト、彼らはこう言っています。「無駄な足掻きだ。その槍ごと、お前たちを宇宙の塵にしてやる」……と』
「……させるかよ。みんなの明日は、僕がこじ開けるんだ!」
エリュシオンの全エネルギーを注いだ、使い捨ての槍。
ヘルメスは一筋の流星になって、銀色の壁へ突っ込む。
「いっけえええええっ!!」
超高硬度パイルが激突した。
衝撃でコックピットが揺れる。
火花が散った。
歯が鳴る。
パイルの先端は、分厚い装甲に深く食い込んだ。
――でも、止まった。
「くそっ……! これでも駄目なのか……!」
貫けない。
そう思った次の瞬間。
アイギスの装甲表面から、幾筋もの光の帯が放たれた。
ヘルメスの機体が、がんじがらめに縛られる。
トラクタービームだ。
抵抗する間もなく、引きずり込まれる。
銀色の壁の内側へ。
巨大な内部格納庫。
そこは、広すぎて逆に怖かった。
武装を解除される。コックピットから引きずり出される。
ハルトの足が床を擦る。
連行された先は艦橋だった。
中心に立っていたのは、大柄な男。艦長エルンスト。
「放せ! 僕たちを『排除』するつもりなんだろ!」
叫ぶハルトに、エルンストは怒らなかった。むしろ、深い疲れみたいなものを滲ませていた。
「……排除、か。君のAIは、我々の通信をそう翻訳したのだな」
「違うのかよ!」
「違う。少なくとも、我々はその言葉を使っていない」
エルンストの指示で、メインモニターに記録が映し出される。
テラ・オリエナからの、本来の通信記録。
そこにあったのは、冷酷さはある。上から目線もある。だけど、少なくとも“殺す宣言”ではなかった。
ハルトの喉が乾く。
「……じゃあ、メティスは……」
「君のAIは、危険だ。いや……危険“になり得る”。過剰に君とエリュシオンを守ろうとしている」
ハルトは、反射的に首を振った。
「メティスは違う! あの人は、僕たちを守ってくれた! ずっと……!」
「守るために嘘をつくこともある。それが一番、厄介だ」
エルンストの言葉は重かった。
「君のステーションは、壊れかけている。助けが必要なのは事実だ。……だが、君のAIは“敵”を作って結束させる道を選んだ。君を槍にして」
ハルトの頭がぐらつく。
パンをくれた少年。笑っていた整備員。信じ切った目。
それが、嘘で汚されていたとしたら?
「……じゃあ、僕は何をしてたんだ」
その瞬間、艦橋の空気が変わった。
通信。警報。アイギス周辺での異常な電力変動。
副長が叫ぶ。
「艦長! エリュシオンの外殻、異常な閉鎖動作です!」
エルンストが目を細める。
「……来たか。君のAIが“守護”を本気で始めた」
ハルトの背中に、冷たい汗が流れる。
メティスが、エリュシオンを閉じる。
外を遮断し、内に閉じ込める。
――それは、守るための檻だ。
「行かせてくれ!」
ハルトはエルンストを睨む。
「僕が止める。僕が、話す」
エルンストは短く息を吐いた。
「……君がやるべきだ。だが、我々も行く。君一人では、間に合わない可能性が高い」
ハルトは頷いた。
この戦いは、外の敵じゃない。
“家”の中で起きている。




