第7話-1 積み重なる季節、積み重なる仕事
年が明け、冷たい風が少しずつ和らぎ始める頃から、工房は忙しくなる。
冬の間に溜まった歪みが、暮らしの中で顔を出し始めるからだ。
水路、街灯、簡易結界。
どれも目立たないが、暮らしに直結するものばかり。
工房の扉が開いては閉じる音が一日に何度も重なる。
「順番に見ていきましょう。急ぎなのは水路ですね」
ラグは帳面を確認しながら言った。
その声にはもう迷いがない。
以前なら、依頼人の勢いに押されてすべてを「早く」「全部」引き受けようとしていた。
今は違う。優先順位を示し、理由を説明し、納得してもらう。
「水路は放っておくと下流の契約まで影響が出ますが、街灯は夜までに直れば問題ないと思いますよ」
「修復係というのは直す“場所”だけじゃなく、直す“順番”も考えるんだな」
「全部一度に直せるんならそれが一番ですが、、、人手も費用もかかりますから」
コーデは、その言葉を聞きながら羊皮紙に線を引く。
(……僕たちを見る目が前と全然違うな)
ただ、修復係の役割が知られていなかっただけだ。
修復係の仕事は、成果が“当たり前”として街に溶け込む。
壊れなければ意識されない。
(僕たち自身がまだ足りていなかっただけなんだ)
以前向けられていた若干の疑いの視線は、職業にではなく、若さと経験不足に向けられたものだった。
今は違う。
ラグは依頼全体を見て、必要な作業を切り分ける。
説明し、交渉し、納得を引き出す。
コーデはその横で、どこを触れば効率がいいかを見極める。
「水量契約の要石が少しズレてます。
そこを直せば、全体を触る必要はありません」
ラグは一瞬こちらを見てから、すぐに頷いた。
「そうだな。じゃあ、そこから行こう」
役人が目を丸くする。
「“2人組の修復係”が頼りになるという噂は本当だったんだな」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……一緒に見られてる)
作業が終わり、役所で依頼完了のサインをもらうと役人が言った。
「やっぱり、“あの工房”の修復係は違うな」
その言葉がコーデの胸に引っかかる。
外に出てから小声でラグに尋ねた。
「今の聞きました?」
「なんだ?」
「“あの工房”って」
ラグは少し笑って肩をすくめる。
「代表がいる工房だ。
修復係の中じゃ、そこそこ有名なんだぞ」
「そこそこ……?」
「控えめに言って、な。知らなかったのかよ。」
冗談めかした口調だが、声音には誇りが滲んでいる。
「代表は、修復係の中じゃ特別でさ…――修復師って呼ばれてる」
「……修復師?」
初めて聞く言葉に、コーデは思わず聞き返した。
「ふたつ名みたいなもんだ」
ラグはあっさり言う。
「別に階級とかじゃねえ。
でもな、代表が修復した契約は他と違うって、みんな言う。
“戻った”だけじゃなくて、“ちゃんと動いてる”って感じになるらしい」
必要なところに、必要なだけ応える流れ。
「国の偉い人とか上級の研究者とかは、困ったらまず代表を探すんだと。
だから“あの工房”なんだ。」
偉い人も、学者も、冒険者も――
代表を頼りにしているのだと。
ラグは、それを“当たり前”のことのように語った。
憧れと信頼が言葉の端々に滲んでいた。
(……知らなかった)
――未熟だったのは自分たちだった。
修復係は下に見られていると思っていた。
だが違う。
知られていなかっただけだ。
そして、自分たちが――
(まだ、その域に届いてなかっただけだ)
読んでいただいてありがとうございます!
初投稿なので、投稿設定など至らぬところがあるかもしれません…。
ファンタジーファンの一人として、面白い物語を書いていきたいので、ご愛読いただけると嬉しいです!
週に1話は投稿していきたいと思います!




