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第6話-1 工房の休日

工房の休日は音が少ない。

金属を叩く槌の響きも、羊皮紙を繰る音もない。


朝の光の中、ラグは作業台に腰掛けたまま背伸びをした。


「……静かすぎるな」


「普段が騒がしすぎるだけですよ」


昨日の作業の片付けを終えたコーデがそう返すと、ラグは鼻を鳴らす。


「まあいい。昼だ。街に出るぞ」


「買い出しですか?」


「街を散策して、昼を食べに行こう」


そう言って外套を取った。


街は休日らしく賑わっていた。

人の流れに身を任せながら歩いていると、コーデの視線が自然と店先に吸い寄せられていく。


魔道具屋。


小さな工房兼店舗からきちんとした専門店まで、通りに点在している。


「……ちょっと、いいですか」


「またか」


ラグは即答だった。


「見るだけです」


「どうせ“見るだけ”なのにな」


一軒目、二軒目、三軒目。

コーデは棚の前に立ち、じっと魔道具を眺める。


起動式が刻まれた留め具。魔力を安定させる緩衝石。

用途不明だが、魔力がしっかり染み込んでいる小物。


(……いいな)


触れられるだけで楽しい。

魔力の残り香がそれぞれ違う。


だが値札を見ると、現実に戻される。

修復係見習いの給料では、簡単に手が出るものではない。


コーデの手元にあるのは、壊れかけて安くなっていたものや効力が小さいものだけだった。


エリオットからもらった琥珀色のペンが、インク無しで物や空中に文字を書ける魔道具だったことに気づいた時は、小躍りするくらい嬉しかった。


「買わないのか?」


「今日は見てるだけで十分です」


「いつもそう言ってるな」


呆れたように言いながらも、ラグは急かさない。


「……たまに買えると、すごく嬉しいんです」


ぽつりと零す。


「長く使えますし」


魔道具はちゃんと手入れすれば応えてくれる。

その感覚がコーデは好きだった。



通りを歩きながら、ラグが思い出したように言う。


「そういえば、この前な」


「はい?」


「師匠が戻ってきてたらしい」


「え……?」


「工房には顔出さず、土産だけ置いていった」


軽く肩をすくめる。


「忙しいんだろうが、少しくらい文句も言いたくなるよな」


だが声音はどこか満更でもない。


「元気そうだったって聞いた」


その一言で話は終わった。


コーデは黙って頷く。


直接話した記憶はほとんどない。

それでも、工房に残る仕事の跡や周囲の人の話からどんな人かは伝わってくる。


尊敬しているのは確かだった。



雑貨屋に立ち寄り、コーデは一冊の本を手に取った。

少し色褪せた表紙の本は、初心者向けらしく文字も大きい。


何の気なしにページをめくる。


『はじめての魔法契約』


 魔法とは、本来、魔力を物や人に染み込ませ、

 起こしたい現象を明確にイメージすることで発現する力である。


(……うん)


その書き出しは、どこか当たり前のことのように感じた。

修復作業の感覚とよく似ている。


 現在主流なのは、呪文や魔法契約書を用いた体系化された魔法である。

 多くの人間は、魔力を直接扱うことができない。


 そのため、呪文や契約文という「型」を用いて、発動条件と結果を固定する。

 再現性は高い一方、自由度が少ないため、用途に応じて細かい呪文や契約文を用いる必要がある。


 ・指先に火を灯す呪文。

 ・水を浄化する契約。

 ・暖炉に火をつけるための簡易式。 などである。


(知ってる内容だ)


孤児院でも、生活の中で魔法が使われていた。

読み進めると、本はその先にまで踏み込んでいた。


 呪文や契約を用いた魔法は、 発動が安定する代わりに持続時間が短い。

 そのため、長期的な効果を必要とする場合、 魔法は契約文書として残される。


 魔法契約書は、魔法そのものを保存する器であり、 書かれた文字と構造が、そのまま魔力の流れとなる。

 綴じ・ 配置・ 紙質など、全てが意味を持つ。


自然と仕事のことを思い出す。 


 魔力量と制御力が十分にあれば、

 理論上は、魔力を直接操作できるはずだと考えられている。

 しかし、そのような行使を実現した者は記録上存在しない。


 また、そのような――


「コーデ、そろそろ行かないと店が閉まるぞ」


続きをめくろうとしたところで、ラグの声が飛んできた。


「約束通り、美味いものを奢ってやるからな!」


「ちゃんと覚えてたんですね…」


「当たり前だろ、いいから行こうぜ」


名残惜しく本を戻し、店を出た。

読んでいただいてありがとうございます!


初投稿なので、投稿設定など至らぬところがあるかもしれません…。


ファンタジーファンの一人として、面白い物語を書いていきたいので、ご愛読いただけると嬉しいです!


週に1話は投稿していきたいと思います!

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