第12話-2 王との謁見
玉座の間は、音が奇妙に吸われる空間だった。
天井は高く、柱は太い。
それだけなら威圧的な広間にすぎない。
だがコーデの目には別のものが見えていた。
(……重なってる)
何代にもわたって更新され、上書きされ、それでも消えなかった契約の残滓。
触れれば、簡単に取り返しのつかないことになる――そんな圧がある。
玉座の前に進み出たアルスは、完璧な所作で頭を垂れた。
「陛下。お久しぶりにございます」
その姿はこれまで旅の中で見てきた代表とは別人のようだった。
軽口を叩き飄々としている、優しい代表。
その面影は消え、そこにいるのは王の前に立つ一人の臣だった。
コーデも慌てて倣い、深く頭を下げる。
王は玉座に腰掛け、しばし二人を見下ろす。
「久しいな、アルス」
気軽な口調とは裏腹に声色は公のものだった。
よく通る制御された声。
感情の起伏は抑えられ、威厳だけが前面に出ている。
「相変わらず、勝手に旅をしているようだ」
「私なんぞのために王のお時間を取らせるわけにもいかず…。しかし、今回は事前に許可をいただきに来ました」
即座に返すアルス。
「それは珍しい。では、此度はなぜそのような奇特な考えを持ったか述べてみよ。」
形式的な会話の応酬。
だが――
その空気の奥にある“楽しんでいる気配”を、コーデは確かに感じ取っていた。
「各地で魔力の歪みが観測されています」
玉座の間にかすかなざわめきが走る。
王が視線を巡らせ、家臣たちに沈黙を命じる。
「北部山岳地帯、ガルド=フラ連邦周縁、そして…旧エルディア諸邦。規模は小さいですが、自然発生としては不自然なほど頻度が増えています」
王はゆっくりと頷いた。
「私の元にも同様の報告が集まっている。原因はなんだと思う?」
「古い契約の再活性、あるいは未整理の魔法遺跡の影響、第三者の干渉――、さまざまな要因が考えられますが、直接調べないことにはなんとも…」
「古の契約や第三者の可能性……厄介だな」
家臣の一人が一歩前へ出る。
「陛下、それでは王都直属の調査隊を――」
王は手を上げ、それを制した。
「その必要はない」
玉座の間が静まり返る。
「アルセウス」
王は名を呼んだ。
「私としても信頼できる目と手が必要だ。“お前に”各地の調査を正式に依頼したい」
一瞬、空気が凍る。
家臣たちの視線が一斉にアルスへ向いた。
「謹んでお受けいたします」
アルスは深く一礼した。
「必要な通行証や文書は、書記官長ヨークから受け取れ。準備が整い次第、動いて構わん」
若い書記官長――ヨークが一礼する。
「承知いたしました、陛下」
その後もアルスが集めてきた情報を報告し、王が意見を述べる時間が続いた。
公的な話が終わると、場にわずかな緩みが生まれる。
その隙を縫うように、アルスが何気ない調子で口を開いた。
「そういえば――」
家臣の視線が一瞬集まる。
「学園の近くにあったレストランにも、先日立ち寄りまして」
王の眉がほんのわずかに動いた。
「ほう」
「陛下が好んでおられた料理もまだありましたぞ」
家臣の何人かは意味がわからず聞き流す。
ただの昔話にしか聞こえない。
王は少しだけ懐かしそうに息をついた。
「それは……懐かしいな」
「見習いだったジークが、王都にも店を出すという噂も耳にしました」
「……そうか」
王は小さく頷き、玉座の肘掛けを何度か指で叩く。
「私も立場と責務からひとときでも解放されて、久しぶりに街に繰り出したいものだ」
その言葉に場は穏やかな笑いで包まれた。
アルスもにやりとして続ける。
「それではお忙しい陛下に代わって、私が一足先に味を試してきますかな。私も忙しくありますが、各地の様子とともに陛下に報告しますぞ」
「お前の皮肉も相変わらずだな。」
王はそれだけ応じた。
――
謁見後、城を出るとコーデは聞かずにはいられなかった。
「代表と王様の関係って……」
アルスは歩きながら、楽しそうに言った。
「学生時代からの友人だよ」
「……やっぱり。事前に言ってくださればよかったのに」
「人の驚く顔が大好きでね」
(言ってくれれば、あそこまで緊張しないで済んだかもしれないのに)
アルスへの不満を持ちつつも、コーデは謁見の内容に興味を持っていた。
世界の歪み。発生頻度。王からの使命依頼。
世界は、確かに動き始めていた。
読んでいただいてありがとうございます!
初投稿なので、投稿設定など至らぬところがあるかもしれません…。
ファンタジーファンの一人として、面白い物語を書いていきたいので、ご愛読いただけると嬉しいです!
週に1話は投稿していきたいと思います!




